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きままに小説書いてるブログ

She gave rock n roll to you という小説を書いています。
どん底な少年がロックとヒロインで救われていく話です。

大河の初めての戦闘から数日後。
ところ変わって、真っ青な空と凍りついた純白の大地が交わる場所。
いかなるものも凍りついてしまう、死の大地。
氷河の白と空の青、ここにはそれ以外に何もない。
ここは極寒の地、南極。
ムガール宇宙船団の過去地球侵略軍の本拠地は南極にあった。
過去地球侵略軍とは、そのなの通り、過去の地球を侵略するためにムガール宇宙船団に新設された軍隊で、南十字星のエリート達が揃う。
侵略軍の本拠地、最下層に位置する格納庫、東京ドーム4つほどの広大な地下空間に、そのエリートを束ねるものがいた。
「ふむ……」
鮮やかな緑色の髪と瞳を持つ、まだ若い男だった。
見た目は若いが、その男の発する威厳は、まさに歴然の勇者の風格であった。
無数にそびえるバケットを見上げ、顎を撫でている。
彼の名は、アウラ ダダグドラ。侵略軍の最高責任者である。
アウラは傍らの側近に尋ねた。
「バケット4機を相手に、そのすべてを撃破したというのか、その敵は」
側近は気を付けをして答える。
「はっ、たった一機の敵機により」
「そいつは、紫か、黒か」
側近は手元のデータ端末を操作しながら返答する。
「それが、見たこともない赤色で。個人武装は今のところ不明です」
「何!新手か!」
アウラは楽しそうに驚くと言った。
「そうかそうか、これで奴らは三人のパイロットを見つけたわけだな。」
彼は戦う相手を欲していた。
絶対的な力。それを自分の力で打ち砕く。
ただそれのみを求めていた。
まさに彼は生まれながらの戦闘狂。
普段の姿からは想像もつかない真実だった。
紳士な態度の奥底に潜む狂気、この事実を知るものは少ない。
彼は、長い足で一歩一歩歩きながら彼の愛機まで近づく。
「それで、今回は勝てるのだろうな?」
漆黒のマントを翻し、振り返りながら彼は尋ねる。
それに側近は神妙な顔でうなずく。
「必ずや」
「それでいい。それでなくては、過去地球侵略軍の名が泣くと言うものだ」
「今回は、バケットと共に、テストの終わったばかりの新型機も出撃いたしますので」
「新型とはあれか、シェイクハンドか」
「はい」
それを聞いた彼は、残念そうにかぶりを降る。
アウラは、愛機エルドラドの爪先の装甲を撫でながら、言った。
「それではダメだろうな。所詮無人機では倒せんよ」
「……」
「わたしの出番が近いのかもしれないな……」
エルドラドを見上げ、アウラが独り言のように呟く。
「そのときは、頼んだぞ。わが友、エルドラドよ」
戦いの時迫ることに微笑むアウラ。
翡翠の瞳の巨人はその時を待ち、世界の果てで眠り続ける。



ところ変わって、スペースリンクス号居住区、大河の個室。
大河と舞は、ベッドに腰かけてテレビを眺めていた。
舞が何かと理由をつけて部屋に居座るようになって既に5日め。
大河は、テレビの芸人がボケを飛ばすたび笑っていた。
対照的に舞はブスッとむくれている。
「む~~」
舞が低く唸る。心底不機嫌だ。
大河は舞がこうなってしまったのは、数日前の、高みに連れていくという、訳のわからぬ約束をすっぽかされたからだと気づいているので、あえて相手しない。
実際、彼は女として見ていないヤツを抱くなんて考えられないので、非常に迷惑していた。
「ヴ~~」
大河を睨み付ける舞の喉は、ついに野獣のような唸り声を発しだした。
このままでは、まずい。この声を出し始めた舞は、手がつけられない野獣と化すのだ。
「ちょっとトイレ……」
大河が逃げようと立ち上がったその時、ついに野獣が動き出した。
「逃がさなギャァー!!」
興奮し過ぎて、もはや日本語ではない。
叫びながら舞は、大河の真上へ跳躍する。
そのまま彼女は彼の首に抱きつく。
「ぎゃーっ!おかされるーっ」
「乙女をいつまで待たせるんだーっ!大河、覚悟しろーっ!!」
舞は大河の首をぐいぐい締め上げる。
ついに大河が根をあげた。
「わかったわかった。タンマタンマ」
「わかればいーのよ」
彼女はもとの位置に腰かけた。
ふう、と一息つく。
こいつは、早急に対処をすべきだ。
大河はおもむろに立ち上がると、舞の顔をじっと見つめ、言った。
「舞、おいで。連れってやるよ。高み」
すると、大河の行動に面食らった舞は、いきなり俯いて照れ出した。
「大河?そ、そんなに見つめちゃ……」
大河は、モジモジする彼女の手を掴み、無理矢理に立たせた。
「あ……」
「何やってんだ」
「大河って、意外に大胆なのね……」
「なに言ってんだ。ほら」
彼は、そのまま舞の脇の下に手を添えた。
「きゃっ」
「すぐ高みに連れてってやるぜ。」
舞を引き寄せ、顔を息がかかるほど近づけた大河が囁く。
「私、嬉しい。ついに大河が本気になってくれたのね」
舞は、うっとりとほほえんだ。
「いくぜっ」
大河は、そのまま両腕の筋肉を使い、舞の体を持ち上げた。大河は下から、舞は上から、二人は見つめあった。
沈黙。
その沈黙を破るように、大河は、体の軸を中心に、いきなりくるくる回り出した。
これはまるで、赤ん坊のころに誰でも一度はやってもらったことのある行為ににていた。
「ほーら、たかいたかーいっ」
そう、高い高いにそっくりであった。
というか、高い高いだった。
「わーい」
舞も喜んでいる。
「ほーらほらほら、高ーい高ーいっ」
「わーいわーい…………じゃねーわよっ」
ズムッ
彼の顔面に舞の足の裏がクリーンヒットした鈍い音がした。
そして倒れる二人。
そのまま大河は正座、舞は仁王立ちで説教タイムへと突入した。
からかわれたせいで、舞の顔は屈辱に歪み、眉間のシワが凄いことになっている。
ピクピクと頬が痙攣している。
「ふざけんじゃないわよ!そういう高みじゃないわよ!全く、乙女の純情を何だと思っているわけ?」
「じゅ、じゅぅんじょぉぉー?」
大河は耳を疑った。
「なんか言った!?」
「いや……」
しかし、舞の一喝で黙ってしまう。
くどくどと舞の説教は続く。いつまでもだらだらと、終わりそうに無い。
しびれを切らした大河は遮るように言った。
「からかって悪かったな、でも、やっぱり最初はキス、でしょ?」
「っ!……そ、それもそうね」
彼女は途端に真っ赤になる。
「じゃ、じゃあお願いするわ」
そう呟いて俯く彼女の前に大河は立つと、耳元で囁く。
「目をつぶれよ」
舞はぎゅうっと瞳を閉じる。そしてこれから来るであろう大河の温もりを待ち構えた。そしてその後の展開に胸を高鳴らせた。
しかし、いつまで経っても大河は、やってこない。
来る気配がない。
「?」
舞は不思議に思い、ゆっくりと目を開けた。
とたんに舞は鬼のような形相になる。
大河は抜き足差し足忍び足で、部屋から脱出を試みている最中だった。
「―――っ!」
舞が怒りに震える。
二回もからかわれたのだ。無理もない。
「がうっ!」
「うわあ、噛みつくんじゃねーっ!」
大河は、怒り狂った舞に身体中を噛みつかれている。
「ガブガブ!」
「いやー!おかされるー!」
大河の悲痛な叫びは、居住区にこだまして消えた。





――数十分後。
「うーん。やっぱこれよねーっ」
舞はご機嫌でサバの缶詰めをパクついていた。
二度もからかわれて野獣と化した舞をなだめるため、大河は非常食としてたまたま持ち物に入っていたサバ缶を与えた。
舞は急にご機嫌になり、サバを引ったくるとテーブルで食べ出した。
サバは、彼女の大好物だった。
特に缶詰めになったサバの味噌煮が大好きだった。
大河がそれを覚えていたこと、非常食としてそれを持っていたこと、この二つの偶然が野獣を沈めたのだ。めでたしめでたし。
舞の機嫌もなおったことだし、大河は話を切り出した。
「そろそろ、教えてくれないか」
「ふふ、何が聞きたい?」
舞はにやにやしながら答える。大河と話をするのが嬉しくてたまらない様子だ。
「おまえのことと、ビビドライガーのこと」
ふう、とため息をつくと、ポツリポツリと語りだした。
「あれは三年位前、まだ私が14才だったころ。私の家に、急に艦長となっちゃんが来たんだ」
「なっちゃん?」
「渚ちゃん。で、その二人は、なんと私をスカウトしに来たんだ。パイロットにならないかって。私の家は、代々忍びの家系だし、それを買ってくれたんだ。もちろん最初は乗り気じゃなかった。でも、必要だって、世界がかかってるって、石がよんでるって。それ聞いたら、なんだか勇気が出てきてね。やってやろうって思ったの。それで、なっちゃんの石を試したら、見事適性ありだったんだよね。」
「そうだったのか。」
舞は、大河の言葉にうなずくと、天井を見上げた。
足をぶらぶらさせながら、話を続ける。
「それからは訓練、訓練、訓練、訓練。しょーじきキツかった。その頃はまだ猫ちゃんも調子悪くてね、扱いにくかったんだ。結局、あたしも猫ちゃんも未熟だったから、闘えるまでに二年かかったよ。」
「二年!」
二年。たかが二年だが、本人にとっては短くはない年月だろう。数字では計れない血のにじむような努力を彼女は積んできたのであろう。
寂しげに天井を見上げる彼女の横顔からは、哀愁が感じられた。
「それで、ムガールのやつらと闘っていたんだけど、2ヶ月前に猫ちゃん壊れちゃってね。直してる間に休暇もらって、ロシアにサンボ習いに行ってたの。強くなるためにね」
「強く……」
彼女の瞳には、強い光が宿っていた。
「大河はエースになる男だよ」
舞が急に真面目な顔で言った。
「なんだよ藪から棒に」
「私は闘うまで二年。大河は一瞬。そういうこと。」
「俺ってすげーのか……」
大河は嬉しそうに呟いた。その様子を舞は寂しげに微笑みながら、眺めていた。
「さすが私のお婿さんだ!」
「もっと言ってくれよ」
「はい、もうおしまい!」
舞は照れてジタバタしながら話を切り上げようとした。彼女には、恥ずかしすぎたらしい。
ふと、思い出したように大河が言った。
「じゃあ、別の話なんだけど、ビビドライガーで強くなるには、どうしたらいい?」
「猫ちゃんでつよくなるためにはね……」
「うんうん」
「それはズバリ必殺技!」
すこここっ!
思わず大河はずっこけた。
「な、なんだよそれ。ずいぶん幼稚だな」
「ちょっと最後まで聞いて。ビビドライガーに搭載されたビビドリウムの巨大結晶は、パイロットの心のパワーに反応して力に変えるの。」
「それと何が関係あるんだ」
舞は得意気に指をくるくるさせている。
「もう、さっしが悪いなあ。必殺技を叫ぶことによって、心のちからがこもるのよん。だから、必要なの。あと、確実に相手を倒せる技があったら、やっぱり戦いに有利に働くんだよん」
「そういうことか」
「ちなみにわたしの必殺技はねえ……」
そのとき、
ビービー!ビービー!
サイレンがなった。
「残念、敵襲みたいね」
舞はにっこりとして言った。
「必殺技の研修は実戦でって事で」
「まかせとけ」
また闘える。
大河は込み上げてくる疼きを押さえながら言った。
彼の口元は隠せていない笑みが広がっていた。