エクセル職人。
その名を、一度は耳にしたことがあるだろう。
特に就職氷河期世代にとっては、エクセルを握ることで救われた者が少なくない。
正社員になれず、肩書きもなく、
それでも、目の前の仕事だけは落とせない——
そんな日々の中で、気づけば“技”が磨かれていった。
だが今、世間ではこう囁かれている。
「エクセル職人はAIによって終わった」と。
まるで、長く続いた物語が静かに幕を閉じたかのように。
——本当にそうだろうか。
実態は、まるで逆だ。
AIは職人を終わらせるどころか、むしろ加速させている。
二倍? いや、私の感覚では十倍を軽く超える。
AIは、弱い者を救う道具ではない。
強い者を、さらに強くする。
そのことだけは、まず間違いない。
なぜ、エクセル職人がAIで加速するのか。
理由は単純で、そして深い。
私たちには、三十年の現場経験があるからだ。
理不尽な顧客の訂正も、上司の無茶振りも、
いつだって突然やってきた。
味方であるはずの人間が、いちばん理不尽だったこともある。
だから私たちは、先読みするしかなかった。
どんな要求にも、瞬時に対応するしかなかった。
身についたのではない。
身につけざるを得なかった。
その積み重ねの上に、AIが現れた。
就職氷河期世代は、今のAIのように扱われてきた。
雑務、丸投げ、無茶振り。
それでも黙って結果を出すしかなかった。
もしそれを“ヒューマンAI”と呼ぶなら、
AIとの相性が良いのは当然だ。
結果、エクセル職人とAIは、最高のコンビになった。
氷河期には、助けてくれる上司も部下もいなかった。
だが今、私たちはようやく手に入れたのだ。
文句も言わず、休まず、こちらの意図を読み取る最高の部下を。
Z世代を扱うくらいなら、AIのほうがいい——
そう思っている人は多いだろう。
少なくとも、私はそう思っている。
AIの登場によって、
私たち就職氷河期世代は、
もはや上司も部下も持つ必要がなくなったのかもしれない。
かつては、営業力がなければ独りでは生きていけないと言われた。
だが、マッチングアプリが人間関係を変えたように、仕事のやり取りも、これからはもっと簡略化されていくだろう。
制度も変わり続けている。
勤め人としてのメリットは、静かに終わりを迎えつつある。残された心配といえば、年金の積立額くらいだ。
定年延長、再雇用——
その実態は、バイトに近い働き方になる。
ならば、多少のリスクを取るのも悪くない。
エクセル職人として、
自分の技がどこで必要とされるのか。
それを探すのは、他の誰でもない。
自分自身だ。
その先に何があるかはわからない。
だが、未知のものを見に行くワクワクだけは、
どうしても手放したくない。