ある氷河期の詩

題名「凍る前の風」

米が消えた。
声もまた、消えていた。
湯気の向こうに、異国の香りが立ちのぼる。

「まずい」と言った舌は、何を食べてきたのだろう。

「ありがたい」と言えなかった心は、何に飢えていたのだろう。

その年、風は吹いていた。

でも、誰もその風に、耳を澄まさなかった。

声が凍り、語りが沈み、氷河期が、静かに始まっていた。



上の詩について

就職氷河期の始まりには諸説あるようですが、1993年頃だと言われています。

その一方で、冷夏の影響による米不足が起きたのもこの年。

タイからの援助によって、日本にタイ米が届きました。けれど、そのタイ米は不評でした。

援助される立場でありながら、文句や酷評が噴き出し、倫理観を問われる事態にまで発展しました。

この出来事ひとつとっても、あの頃の空気には、
道徳や感謝といった言葉が、どこか遠くに追いやられていたことが伺えます。

そして同じ時期、静かに、しかし確実に、
就職氷河期が進行していました。

米が消えた初秋。

それは、声が消え、語りが凍りはじめた季節でもあったのです。