彼女の今日の名前はキティ。
因みに昨日はミニー、一昨日は食パン。
別に毎日名前を変えてるワケではない。
たまたまこの3日間は変わっただけのこと。
当然、怪しい職業というワケでもない。
ただ彼女、キティは特技とも言うべきか、物凄い能力を持っているらしい。
そんな噂を聞きつけ、僕は取材を申し込んだ。
快く彼女、キティは取材を承諾してくれたので今僕はここにいる。

彼女、キティのお気に入りの場所であるテンピュールベッドの横に置いてある、
三輪車が客人用のイスとなっているらしい。
股を大きく開き小ちゃなほぼ三角形のサドル部分にケツを置く。
サドルがケツに食い込んでくる感じが気にはなるが、
彼女、キティにとってはこれが歓迎の形なのだから僕はそれに従うべきなのだろう。

「早速ですが、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

「どうぞどうぞどうぞどうぞどうぞ。いいですよいいですよいいですよいいですよいいですよ。」

「キティさんはどんな時でもダイヤを手に入れることが出来るという話を噂で聞いたのですが、それは本当なのでしょうか?」

「本当よ本当よ本当よ本当よ本当よ。それよりそれよりそれよりそれよりそれより、敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて。」

「あ、はい。で、どうやってダイヤを手に入れるのか教えて欲しいのですが・・・」

「だからだからだからだからだから、敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて。」

「あ、すいません。」

「だからだからだからだからだから、敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて敬語はヤメて。」

「・・・取材という形で話を進めていく以上、敬語を使わずに質問をするというのはどこか違和感が・・・そうキティさんが同じ言葉を必ず5回繰り返すのと同じぐらい会話に違和感が生じると思うのですが・・・」

「そうなのそうなのそうなのそうなのそうなの。じゃあヤメるじゃあヤメるじゃあヤメるじゃあヤメるじゃあヤメる。」

「あああああ、すいません。失礼なことを申し上げました。どうぞ、このまま取材を続けさせて下さい。お願い致します。」

「違うよ。取材をヤメるんじゃなくて、同じ言葉を5回繰り返すのをヤメるってこと。」

「あ・・・はい・・・えーっと、じゃあ改めてもう一度始めからお願い致します。」

「どうぞ。」

「で、どのようにいつでもダイヤを手に入れるのですか?」

「バナナを食べるの。」

「バナナ?」

「そうバナナ。」

「どういったことでしょうか?」

「だからバナナを食べるの。そうするとダイヤが手に入るの。」

「すいません、意味がわかりませんが・・・」

「どうして意味がわからないの?バナナを食べるとダイヤが手に入る。そのままのことよ。」

「・・・では、是非とも今僕の目の前でバナナを食べて頂くワケにはいかないでしょうか?」

「喜んで。」

彼女、キティは満面の笑みを僕に見せ、枕の上に置いてあったバナナを1本食べ始めた。

「美味しいわぁ美味しいわぁ美味しいわぁ美味しいわぁ美味しいわぁ。」

ほどなくバナナを食べ終え、彼女、キティは僕に掌を広げて見せた。

そこにはダイヤが・・・

鑑定士ではないのでそれが本物だと絶対に言い切れる自信はないが、ダイヤ・・・

本物だろう、素人目に見ても輝きがスゴ過ぎる・・・

「あのー、そのダイヤはキティさんの私物でしょうか?」

「私物?うーん?私物かなぁ?今の今手に入ったモノだけど、私の手に入ったワケだから私物なのかなぁ?」

「失礼ですが、最初から掌の中に入っていたのではないでしょうか?」

「まーまーまーまーまー、何で何で何で何で何で、そんなことそんなことそんなことそんなことそんなこと、言うの?言うの?言うの?言うの?言うの?」

「イヤ、私以外の人でもまずそのように言うのではないでしょうか?」

「ヒドいわヒドいわヒドいわヒドいわヒドいわ、泣いちゃう泣いちゃう泣いちゃう泣いちゃう泣いちゃう。」

「・・・失礼致しました。ではもう一度だけ、今度は私に両方の掌を見せた後にバナナを食べてもらえませんか?」

「何で何で何で何で何で、疑ってる疑ってる疑ってる疑ってる疑ってる、あなたにあなたにあなたにあなたにあなたに、そこまでそこまでそこまでそこまでそこまで、しないとしないとしないとしないとしないと、いけないの?いけないの?いけないの?いけないの?いけないの?」

もしもこれが何らかの仕掛けがある手品のようなモノではなかった場合、
せっかくのネタが台無しになる。
ここは下手に出るべきだろう。

「疑っているのではありません。あまりにビックリし過ぎてしまって常人の私には信じられないだけのことなのです。ですから、今一度この目に瞬きすることなく全てを焼き付けたいのです。どうぞ、もう一度だけ、私に見せて頂くワケにはいかないでしょうか?」

「じゃあじゃあじゃあじゃあじゃあ、コーヒーをコーヒーをコーヒーをコーヒーをコーヒーを、飲んでから飲んでから飲んでから飲んでから飲んでから。」

「どうぞ、ゆっくりと味わって飲んで頂いてからで結構ですから。」

バナナの置いてある枕とは違う、もうひとつの枕の上にたくさん置かれた缶コーヒーのひとつを手に取り、
飲み終えた彼女、キティから驚きの言葉が・・・

「ダイヤはダイヤはダイヤはダイヤはダイヤは、もうもうもうもうもう、ありませんありませんありませんありませんありません。」

やはりガセネタか?

「どういうことでしょうか?」

「コーヒーコーヒーコーヒーコーヒーコーヒー、飲んだから飲んだから飲んだから飲んだから飲んだから。」

「・・・だから、キティさんが同じ言葉を必ず5回繰り返すのと同じように意味がわかりません。」

「あっ、はい。えー、バナナを食べるとダイヤが手に入るのですが、コーヒーを飲むと無くなるのです。」

「コーヒーを飲まずにダイヤをたくさん集めようとは思わないのですか?」

「そんなことは思いもしませんでした。バナナを食べた後はコーヒーを飲まないといけないのです。」

「ダイヤをどこかに置いたあとにコーヒーを飲むようにする、もしくはコーヒーを飲むのを少しだけ我慢してどこかにダイヤを売りに行く、そのようなことを考えはしないのですか?」

「しません。そんなこと何の意味もありませんから。」

「どうしてですか?意味はありますよ。ダイヤはあなたの財産になります。今食べているバナナよりももっと美味しいバナナを。今飲んでいる缶コーヒーよりももっと美味しい缶コーヒーを。その他にも今使っているテンピュールベッドを新しいモノに変えることだって出来ます。物凄く意味があることだと思いますが。」

「・・・やはり意味はありません。あなたの存在の意味がわからないぐらい意味はありません。」

「どういう意味でしょうか?」

「そういう意味です。」

彼女、キティがそう言った途端にその姿が大きくなり始め・・・

・・・イヤ、違う。

僕・・・俺が小さくなってるんだ。どうなってんだ?

「そういうことです。」

彼女、キティの声を聞いたのはこれが最後だ。

彼女、キティの姿を見たのもこの瞬間が最後だ。

彼女、キティ以外の声も姿も全部聞こえない、全部見えない。

僕・・・俺は・・・そういうこと・・・か・・・



1ヶ月ぶりにPCの電源を入れた。
特に何がしたいという訳ではなく気分転換にだ。
受信メールの件数が1000件を越えてる。
何がしたい訳でもないのでちょうどいい。
どうせどうでもいいようなメルマガが半分を占めているだろうし、だらだらチェックでもすればいい。

行き着けのショップのメルマガ。
ネットで購入したことのあるショップからのメルマガ。
どこで漏れたんだか、訳の分からない迷惑メール。
仕事絡みのメール。
ツレからのメール。
普段PCでのメールのやりとりなんてほとんどしないヤツらからのメールも多い。
この間顔をあわせた日に言葉はなかったからか。

眠りに就けない時にPCなんて見るものじゃないっていつも言われてた。
交感神経が働いて余計興奮状態になってしまい眠りの妨げになると。
確かにそうなのかもしれないと今初めて実感しながらツレからのメールを
ひとつひとつ、一字一句、漏らさないようにハートにしまっている俺がいる。

最新のメールから順にチェックしていき、メールの残りも後少しというところで、
目に入ったメール。
件名には『成人式』とある。
日付は・・・3月3日、桃の節句。

この日彼女は俺と2人で始めた新居から1時間ぐらいのところにある実家に帰っていた。
実家のお雛様を見るのもこれで最後になるのかなんて言っていたのが
つい昨日のことように思えてならない。
せっかく桃の節句だからということで帰省する彼女の想いに
お義父さん、お義母さんもとても喜んでいた。
成人式の時に2人で撮った写真の話をお義父さんたちからは聞いていないので、
きっと家族での夕食を済ませた後、荷物をまとめてたのだろう。
とても幸せな余韻を残しつつ部屋の整頓を進めていく途中で見つけ、
俺にメールしてきたのだろうか。



『成人式』

   ネェネェ、見て見てー!!
   懐かしい写真が出て来たよー!!
   
   ワッ君、痩せてるねー、あたしは確か痩せてる人がタイプなハズなんだけどなぁ??
   もう一度この時みたいに痩せなよ!!
   絶対カッコいいよ!!
   この頃は・・・・・

   な~んて!!
   中身は今の方がカッコいいかな??
   どっちかなぁ??
   
   なんでだろう?
   ず~っと、ワッ君と一緒にいたいって思うのは・・・
   
   これからもずっとヨロシクね!!

   あ!!
   結婚式の写真とは別にもう1枚写真撮りにいこうか?
   この成人式の写真を撮りにいったところにさ。
   10年おきに撮りにいくってのはどうかな?
   家に帰ったらまた話そうね!!



『うん、わかった!!
 じゃあ今度は40歳になった時。
 その時は多分2人じゃないけどね。
 何人での家族写真になるか楽しみだね!!
 それにしても本当に俺カッコいいねぇ~!!
 頑張ってダイエットするかー?
 美味しくて痩せる飯をバンバン作ってよ!!
 頼むよ、奥さん!!』



こうやってすぐに返信さえしていれば、
簡単なメールのやりとりが始まって時間がずれていたのかもしれない・・・
そうすれば、あんな事故に遭うこともなく・・・
いつもは家でだいたいPCを開きっぱなしでテレビを見てる時間帯なのに・・・
この日は・・・この日に限って仕事が遅くなって・・・

ごめんな、みぃ。
本当にごめんな。
仕事は生きていくための手段であって大切なのは家族だからなんて
いつも言っていた俺が家族になったばかりのみぃの声を聞いてあげられなくて・・・
メールの返信なんかじゃなく、電話したってよかった。
きっとその方が2人で俺の昔の姿を見てあれこれと盛り上がれたよな。
みぃの振り袖姿の写真を見て、この時も可愛かったけど、
今はとてもキレイだって言いたかった。
今、俺1人でメールに添付されてる成人式の写真を見て感想を言ったって意味がない。
この時にまさか結婚するなんて思ってた?
って、みぃに聞いてみたいし、みぃに聞かれたい。
どうして今頃このメールを見てるんだ俺は・・・
俺がヘボイこと知ってるだろ?
それでも俺が良いって、俺が好きだって言ってくれたじゃん・・・
絶対に俺よりも先に死なないでくれっていう
意味のわからない約束を守ってくれるって言ったじゃん・・・
守ってないじゃん・・・みぃ・・・
約束を守らないことを責めてぶつけたいのにぶつけられないじゃん・・・
ズルい・・・ズルいよ、みぃ・・・
ツライ・・・ツライよ・・・みぃ・・・

俺は弱いから、ヘボイから、人を攻めないと自分を保てそうにないんだ。

だからずっとみぃを攻め続ける。
ずっとずっと・・・
俺との約束を守らないで死んだみぃが悪いんだからな。

俺はみぃみたいに嘘はつかない。
俺はみぃとの約束を守るから。
絶対に絶対に守るから。
だから、そこから見届けてくれな。
それぐらいのことはしてくれよ。
俺は誰よりも幸せになる。
みぃが俺には誰よりも幸せになってほしいっていつも言っていたから。
だから・・・だから俺のことを見守っていてくれな。

みぃ、メールありがとう!!
嘘つきになってしまいそうだった俺にメールをくれて本当にありがとう!!

明日、俺はみんなに連絡する。

みぃには今連絡する。

俺は大丈夫だから!!







なぜか好きな物語には決まってカエルが登場する。
もちろんその物語にカエルが登場することなど知らずに読み始めるのに。
日常、私はカエルに興味などない。
興味がないどころかむしろ嫌いである。
嫌いという強い意志概念を持っているそのことさえを興味と呼ぶのだとしたら別だが。

桜が咲き始めたこの2、3日。
通勤に使ういつもの土手で毎日遭遇する。
暖かくなり始めたところで、一度グッと気温が下がり開花する桜。
そんな季節なので、言ってもまだまだ当然のことながらジャケットは手放せない寒さだ。
なのに、それなのにだ。
2日・・・いや3日だ。
3日続けて私の前に突如として現れる。
1日目は流石に当たり前に普通に驚いた。
こんな季節に突如として目の前に現れたのだから。
水の流れの少ない川を瞬きすることもなくただじっと眺めているその姿を横目に通り過ぎた。
2日目もまた驚いた。
ただその驚きは1日目のそれとは違う驚きだった。
体ごと私の方を向き、じっと見つめて来たのだ。
完全に目と目が合っていた。
29年生きて来た人生で一度も経験したことのない経験だった。
そして3日目。
今朝のことだった。
私は道を見失った。
いや、正確には道が見えなくなっていたと言うべきか。
私の行く手を堂々と阻む、馬鹿でかいソイツ・・・カエルがいたのだ。
今日も通勤で使ういつもの土手のいつもの場所にカエルがいることを想定しながら来た。
が、想定外だった。
いつもの・・・普通のサイズではない・・・
周りを見渡すが誰もいない。
おかしい。
いつもと同じこの時間帯に誰もいないなんておかしい。
同じ時間の電車に乗るビジネスマンや学生の誰もがいない。
いや、本当におかしいのはそんなことよりも目の前にいる・・・ある・・・カエル・・・
私の戸惑いなど知る由もないのか突然カエルは大きな口を開けた。
その中には見覚えのある何かが。
その瞬間、ねっとりとピンクがかった赤い舌が私の目の前まで伸びた。
その舌の上にはパソコンが。
見覚えがあるのは当然だった。
私が家で毎日使っているモノだったからだ。
馬鹿でかいカエルは上唇から垂れるヨダレを自由自在に操りキーボードを叩き始めた。



       『これはお前の好きな物語』



頭の中でそのフレーズを呼んだ瞬間、
私のパソコンはもちろんのこと、馬鹿でかいカエルは消えた。
音はなかったと思う。
目の前にはいつもの道。
駅へと向かい左に曲がっていく道が見える。
そしてそこにはこの時間、トーストを加えたまんま自転車に乗っているいつもの学生が。
私を追い抜いていく自転車もある。
後ろを振り返れば、密かに想いを寄せているあの人の姿。
音だけじゃなかったのだろう。
あの瞬間、時間も存在などしていなかったのだろう。
私以外には・・・
会社に向かう電車に揺られながら、もう一度頭の中であのフレーズを言ってみる。



       『これはお前の好きな物語』



ニヤけたりなんかはしない。
私の好きな物語にも色々とある。
でも悪い気はしない。

カエル・・・カエルねぇ・・・

明日もいるのか?
明日はどうなる?

カエルが導く私の道。
カエルが意識させてくれる私の物語。

気をつけなければいけないことがあるのなら、
日常を広げてみることだろうか。

とりあえず今から海へ行こう。

なんだか面白い人生になりそうだ。