神経質な上に寒さも加わった僕は大して眠ることなど出来ずに
おじいちゃんが毎朝起きる時間の5時を迎えた。

そっとおじいちゃんの部屋のドアを開けてみた。

おじいちゃんはまだ眠りに就いたままだった。

おじいちゃんを起こそうと部屋に入ると、
その物音に気が着いたのかおじいちゃんが身体を起こした。

「おはよう。ゆっくり寝れた?」

僕が訊くと、

「寝てたのか寝てなかったのかよくわからん。ずっとばあさんと話をしとった。」

と、おじいちゃんは応えた。

「いい夢が見れたね。」

僕が再びおじいちゃんに声をかけると、

「夢なのかなあ?夢じゃないような気がしてならん。」

おじいちゃんはそう応えた。

「じゃあさ、朝一番のトイレに行ってみようよ。そこにはいつもおばあちゃんがいるんでしょ?」

僕が言うと、

「もうトイレは行ったよ。」

おじいちゃんが行った。

「それは夢だよ。ずっと俺は部屋の前にいたんだから。」

「いや、もう行った。」

再びおじいちゃんはそう言った。

その顔は真面目だった。

ボケているようにはとても思えない。

「おじいちゃん、おばあちゃんと毎日夢の中で会えて幸せだね。」

すると、

「やっぱり夢か?じいちゃんはそんな風に思えない。」

今度もやはり真面目な顔つきだ。

「おじいちゃんにとって幸せな出来事なんだから夢かどうか問う必要なんてないんじゃない?」

僕は続けた。

「おじいちゃん、全然ボケたりなんかしてないでしょ?」

「ボケちゃおらんぞ!!」

ちょっとおじいちゃんは怒って応えた。

それが答えだ。

「朝ご飯の時、みんなには俺から説明するね。」

「何を?」

おじいちゃんは一人・・・いや、おばあちゃんと二人だけの世界を築いたんだろう。

錯乱でもボケでもない。

二人だけのファンタジーを築いたんだ。

僕らはそれに気付かなければならないだろうし、
そんな風に生きていかなければいけないのだろう。

それが大きな人生の結論なような気がする。

おじいちゃんの部屋のカーテンを開けた。

冬の鋭角な日差しが部屋に勢いよく入ってきた。

この勢いに乗って僕はどこへいこう。