花広場へは下道と高速を使い1時間ちょっと。
高速に乗るまでは後部座席に付け替えたチャイルドシートで
隣のおばあちゃんと楽しそうに手遊び歌をしていた愛だったが、
信号もなく止まることのない高速に乗るとすぐに眠りについてしまった。

「高速に乗る時はいつも決まってこれだねぇ。」

「何が?」

「BGM。」

「そうだっけ?でもそうかもしれないね。好きな曲聞きながらがいいじゃん、高速ってさ。」

「これって結が高校の時に男の子に借りて来てずっと聞いてたヤツでしょ?」

「そんなことよく憶えてるねぇ?」

「憶えてるよぉ。自分の部屋で聞けばいいのにわざわざリビングにまでCD持って来て毎日かけてるんだから。それまで対して音楽なんか聞いてもいなかったのにさ。まして洋楽なんて。」

「確かにそうだね。あの頃はオアシスに夢中だんたんだよ。」

「夢中だったのはオアシスじゃなくてそのCDを貸してくれた男の子だったんじゃないの?」

「突っ込んでくるねぇ?多分そうだね。何回も何回もCDを聞いて会話を合わせたかったんだよ。乙女心っていうヤツかな?でも繰り返し聞いてるうちに実際に好きになったから今でもこうして聞くことがあるんだよ。」

「ふ~ん。」

愛との生活が始まって自宅ではあまり音楽をかけることのない私だが、
車を運転する時はラジオではなく音楽をかける。
さほど音楽に興味がないのでハヤリの曲なんて持っていない。
高校生の頃好きだった男の子に借りたオアシスの『モーニング・グローリー』。
実際にそれ以来オアシスのことが好きになり
今でも新しいCDがリリースされれば購入する唯一のミュージシャンだ。
解散してしまったのがとても悲しい。
いつの日かまた兄弟、仲直りして再結成してもらえたらなと思う。
音楽的なことは何もわからないが世間で名盤と言われる『モーニング・グローリー』が
私も一番好きなアルバムだ。
中でも今かかっている3曲目の『ワンダーウォール』が一番好き。
当時、流行っていたチコチコしたダンスミュージックというモノが
どうしても馴染めなく音楽というモノとは距離があった。
カラオケで困らない程度に歌えればそれでいいかぐらいだった時に聞いたこのアルバム。
最初はキレイに韻を踏んでる曲だなぁぐらいにしか思っていなかったが、
何回も繰り返し聞いてくうちにどんどんとその魅力に気付いていった。
何度も言うが私は音楽的なことは何もわからない。
でも『ワンダーウォール』という曲がシンプルな作りであるということぐらいはわかる。
何かそこが格好良かった。
リアムの気怠そうに且つダラダラと歌う感じもカッコいい。
歌詞の意味を自分で調べた時にその好きさは一段と増したように思う。
自分にとってのワンダーウォールが現れたらいいのになぁと、当時ずっと思っていた。
特に不満などない日常を送っていた私にとってのワンダーウォールとは何だったのだろう?
今となってはよくわからない。
ただ自分を導いてくれる心強い人に憧れを抱いていただけなんだろう。
そんな人、目の前にいたのに・・・
違うか?当時はカッコいいそんな男の子を求めていたのか。
ワンダーウォール・・・母が私にとってのワンダーウォールだ・・・

「あっ、桜。」

「どこ?」

「あそこ。」

母に言われ見ると田んぼのど真ん中に1本の桜の木が。

「あんなのあったっけ?」

「わかんない。でもあんなに目立つように1本だけあったら気付きそうなものだけどねぇ。」

「そうだよね。この季節はだいたい毎年、この道通るからね。」

桜のこの季節、花広場に行くのは我が家の毎年恒例の行事となっている。
が、私は3年ぶり、愛は初めての花広場。
2年前は出産を控えていた時期だったので行けず、
去年は・・・去年は父と一緒に外出する気持ちにはなれていなかった。

「去年はなかったの?」

「さあ?」

結局答えなど出る事もなく景色のひとつとして通り過ぎて行った。

「お父さん、今日行かなかったら今年はもう行ける日がないんじゃないの?」

「そうだねぇ。来週の土日にはもう散ってそうだしね。いいんじゃない?たまたま桜の季節だから桜も堪能してってぐらいでしかないと思うから。お父さんにとっての花広場は。」

「えっ、そうなの?」

「そうだよ。お母さんが春の花を見に行きたいからっていうのが一番の理由なんだから。それに花広場だと結も一緒に出かてくれていたでしょ?お父さんにとっての花広場は家族の喜ぶ顔が見れる場所ってことなの。」

「・・・じゃあ、やっぱり一緒に行きたかったね・・・」

「何気にしてるの?お父さんが勝手に出て行ったんだから結は気にしなくていいの。」

「でもそうさせたのは私・・・じゃん・・・」

「そんなことを愛ちゃんの前で言わないの!!すぐに大人が言ってることなんて理解するようになるんだから!!結とお父さんの個人的な意見の違いがあった、それだけのこと。あって当たり前でしょ?そんなこと。意見が違った時は時間をかけてお互いに話し合いを重ればいいの。それをしようとしないのはお父さんなんだから、結が気にする事じゃないの。わかった?」

「うん・・・」

母は100%の気持ちでそう言ってるのだろうか?
私の気持ちの負担を和らげようとそう言ってるのではないだろうか?
結局、何を言われても自分に非があるように思えてならない。
もちろん、愛は『非』なんかではない。
私のマインドが『非』なのだ。
父との会話が私のマインドのベクトルをどこに向かわせるのかはわからない。
わからないからしなければならない。
今日のことを手紙にでもして父に送ろう。
メールじゃ軽過ぎる。
いずれ履歴も消える。
例え保護してくれたとしても私からのそのメールを見るまでに
いくつかのステップを踏まなければならない。
手紙ならすぐだ。
見たいと思った時、手に取ればいいだけのこと。
父が私との会話をしてくれるようになるまで、私は色々なアクションを起こさなければ・・・

3年ぶりに通る道の景色は幼少時から見て来たソレと変わらないところもあれば、
変わったところもたくさんある。
変わらずに感じるのは田んぼの景色であって、
建物や看板などは変わったものの方が多いのかもしれない。
父の話題をした後の母との会話のやりとりはあまり頭に入っていきはしなかった。
運転しながら見る周りの景色の変化、自分の変化などを何となく考えていた。