マスターに聞いてみる。

「この女性シンガー、誰ですか?」

含み笑いをした後、マスターは応えてくれた。

「ジミー・スコットです。ジャズメンですよ。」



コールマンシンドロームという遺伝的な病気により、
彼の身長は成人しても小学校高学年程度までしか成長しなかった。
しかし、少しずつ成長は続き、世間に知られるようなブレイクを果たした頃には、
150cmを超えるほどになっていたという。

代わりに神は、女性のような、が、女性とはまた違う、
まるで天使のようだと称される、美しすぎる声を彼に与えたのだとマスターは教えてくれた。



マスターによるジミー・スコットの簡単な生い立ちなどを聞き終わる頃には
さっきまでグラスを淡い琥珀色に染めていたモノはなくなっていた。
甘く繊細な香りだけを残して・・・



それはまるでひとりの素晴らしきジャズメンの歌声のように
僕の中へ、僕の目の前へ、スウーっと・・・



締めのコーヒーを飲みながら、
思いがけず入り込んで来た素晴らしき出会いに再び酔いしれる・・・



明日からは日常の全てが詰まったリアリティのど真ん中で、
彼が歌う人生に勝手ながらリンクさせてもらい僕は生きていくことになるだろう。