天使の歌声と称される彼の音楽に初めて触れたのはある行き着けのバー。


もちろんジャズは好きでそれなりには聞いていた。
ただ僕の中で基本、ジャズは外で楽しむモノだった。

一言でジャズと言ってもいろんなジャンルがある。
しかし、そのどれもが日常の全てを語る部屋の中にはそぐわないと思っていた。

当時の僕はまだまだジャズの本当の魅力に気づいていなかったのだろう。



深夜2時を回った頃、他に客はなくマスターとふたりきり。

キングスバリーのハンドライティングシリーズ、ハイランドパーク15年を飲んでいたと思う。

淡い琥珀色のグラスを透明の光のような歌声が通り抜ける。

僕の口の中に響くそのまろやかで繊細な味は、麦が運んで来てくれたモノなのか、
あるいは1人のシンガーのソウルなのか、僕にはわからなかった。

ただ言えることはいつものようにモルトを楽しんでいた僕の口と鼻は、
いつもとは違う違和感を感じていたと言うことだ。

口と鼻の違和感、すなわち脳が別の何かを感じたのだ。

ちょっとだけ目を瞑る。

その違和感は少しずつ輪郭を形成し僕の耳へと入っていった。


悲哀を帯びた美しいその歌声はまさに魂そのもの・・・

僕の脳天を揺らしたのはこの日に限ってはモルトではない。



これだけの衝撃を受けたシンガーはジャニス・ジョップリン以来だ・・・



モルトを楽しむその口や鼻はもはや耳障りなモノへと変貌を遂げていた・・・



これほどの至福の瞬間はないと信じてやまなかった僕のモルトタイムは脆くも崩れ去った・・・





<ジミー・スコット2へ続く・・・>