いいなあ、のこと | 想像で遊び創造で遊ぶ

いいなあ、のこと

専門学校時代、

夜間学科だった僕は昼間は個人デザイン事務所でバイトしていた。


そこのデザイナーの40ちょっとぐらいのおじさんは非常に無口だった。




朝は「おはようございます」


コーヒーを淹れてあげる。

その人の好みはかなり粗挽きのコーヒー豆だ。

それに豆乳を入れる。



その後、ずっと無言でカチカチ、パソコンに向かう。

家が近くだったのでお昼は家に帰って食べる。



昼からもカチカチ、カチカチ。



時おり、データとカンプを持ってお客さんのところまで自転車で向かう。



帰ってきてから、またカチカチ、カチカチ。



夕方6時に学校があるので「おつかれさまでした」






沖縄に遊びに行くとき、しばらく休みますと言ったら、

心から、「いいなー」とポツリとその人は言った。


あるときは、

「俺、最近家庭菜園やってるねん」とさも自信ありげに言った。


またあるときは、

突然、

「あー、田舎に住みたいなー」と言った。






とても忙しいとき、

その人は何枚もプリントアウトしたページを冊子にするためスティック糊で張り合わせていた。

お客さんにそれを渡すまでの時間が全くないらしく、

ペラペラぺたぺた、ペラペラぺたぺた、ペラぺた、ペラぺた。


「あー!!」


と叫び声が聴こえたので、よくみると、

間違えて印刷されたページを糊で張り合わせていた。


無口なその人が叫んだ、その事実と、

忙しい張り詰めたテンションでのそれは、

僕にはかなりツボだったので、

後を向いて「ブーっ!!」って笑った。







笑いの神が一番好きなのはこういう瞬間じゃあないだろうか。

絶対に笑ってはいけないとき。


僕は絶対に笑ってはいけないときに、一番笑ってしまう。



ある人がとてもシリアスな状況でも、

とてもかっこつけていても、

真剣でも、

自分がそういう状況であっても、

どこかに絶対に笑いの神様はひそんでいる。




だから、世界は喜劇だなあ、と考える。





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