九月二日 | √225さんのブログ

九月二日

不快な熱気に起こされた。真夏のような暑さだ。半ば強引に差し込む陽射しを避けるように、腰をかけ、朝食をとる。低血圧の私にとって、朝の時間の過ごし方は、一日の全てを支配する重要なものだ。
朝番組に登場する女子アナウンサーを無条件に尊敬してしまう。

ぐったりするような暑さの中、スーツのジャケットを手に、今日も駅へ向かう。
あ~またシミが増えるわ。
大して気にしてもない愚痴を抱えながら、いつもより重い体を無理矢理動かす。

ホームは、少し前の、夏の光景だった。ひどく懐かしい気がするが、ほんの数日前も確かこんな光景だった。

なつきだ。
グレーのジャケットを無造作に手に掛けていた。なつきの着こなしはシンプルだが、ディティールの凝った質のいいスーツをいつも着ていた。
黒地にグリーンの水玉が入ったハンカチを、顔にあてたまま俯いているなつきは、泣き出しそうな顔をしていた。
暑さのせいなのか、昨日からのあの異変なのかは、わからない。
電車に乗り込むと、なつきの顔がしゅっとなる。
彼女は、随分切り替えが上手くなった。

ジャケットを鞄に乗っけて、左手で吊り革をつかむ。あの付箋の貼られた文庫本を、今日こそ読むらしい。

すっかり汗をかいた私は、カットソーを気にした。始業早々汗くさいのは、なんとしても避けたい。

向こう側から、移動してくる男がいる。ひょろっとしているが、焼けた肌の感じでスポーツをしているものだとわかる。おそらくテニスか何かだろう。

「なつ~」
なんとなく間の抜けた声。なつきは顔をあげた。
長田だ。

なつきは「あ~おはよ~」と返した。
二人が親しい仲だということは、見て取れた。恋人ではないことも、すぐわかる。幼なじみとか親戚とか、そういった空気だ。
しかしなつきの長田を見る目は、どこか遠くを見ているようだった。

昨日のなつきの異変は、この長田が原因なのではないか。
そんな結論を出した頃、流されるように、私はホームへ降りた。