九月一日
携帯電話を開くと、九月の表示に変わっていた。特に気に入った画像やら写真やらもない私の待受画面は、相変わらずカレンダーだった。なつきもまた、そうだった。
もう九月かぁ。
そう呟きながら、なつきは汗ばんだ額をハンカチでおさえる。アイロンのかかったラベンダー色のハンカチは、きちんと畳まれるでもなく、だからといって、何となく手の平サイズに畳まれたのでもない。少しずつ端がズレて折られていた。おそらく使い込むうちに伸びてしまったのだろう。現に私はそのハンカチで汗を拭うなつきを何回も見かけた。
ふぅっと溜め息を漏らす。
夏らしいこともせずに、九月になってしまった。
そんな気持ちの代弁のように聞こえた。いや、もしかしたらそれは私の声を勝手に投影しただけかもしれない。
降り続いた雨も今日は顔を出さない。蒸し暑く、べたべたする。八月と言われれば、八月だろうと感じる、そんな天気だ。
そもそも同じように時が刻まれる中、三十一日から一日に変わったところで、突然秋めくはずもない。
溜め息をついたなつきは、妙に感慨深げな表情を浮かべる。しかしその表情とは裏腹に、なつきの感情の波が振れたようには感じなかった。
学生がまだ夏休みだからか、混んではいるものの、車内には少しずつスペースがあった。
なつきは、所々付箋の貼られた文庫本を、肩に掛けた鞄から取り出した。その革の鞄は、随分なつきに馴染んできたようだった。吊り革を左手に持ち替え、その本に視線を落とす。
見知らぬ人間の集合体の中でも、彼女は上手に自分の空間にする。半年前の彼女には決して見られなかった姿だ。
しかし彼女はすぐに本を閉じ、鞄に視線もやらずにしまいこんだ。外を眺める彼女は、器用に本を読むことも出来ず、ただ混み合う車内から逃れるように外に顔を向けていた以前の彼女とは、明らかに違っていた。
もう九月かぁ。
そう呟きながら、なつきは汗ばんだ額をハンカチでおさえる。アイロンのかかったラベンダー色のハンカチは、きちんと畳まれるでもなく、だからといって、何となく手の平サイズに畳まれたのでもない。少しずつ端がズレて折られていた。おそらく使い込むうちに伸びてしまったのだろう。現に私はそのハンカチで汗を拭うなつきを何回も見かけた。
ふぅっと溜め息を漏らす。
夏らしいこともせずに、九月になってしまった。
そんな気持ちの代弁のように聞こえた。いや、もしかしたらそれは私の声を勝手に投影しただけかもしれない。
降り続いた雨も今日は顔を出さない。蒸し暑く、べたべたする。八月と言われれば、八月だろうと感じる、そんな天気だ。
そもそも同じように時が刻まれる中、三十一日から一日に変わったところで、突然秋めくはずもない。
溜め息をついたなつきは、妙に感慨深げな表情を浮かべる。しかしその表情とは裏腹に、なつきの感情の波が振れたようには感じなかった。
学生がまだ夏休みだからか、混んではいるものの、車内には少しずつスペースがあった。
なつきは、所々付箋の貼られた文庫本を、肩に掛けた鞄から取り出した。その革の鞄は、随分なつきに馴染んできたようだった。吊り革を左手に持ち替え、その本に視線を落とす。
見知らぬ人間の集合体の中でも、彼女は上手に自分の空間にする。半年前の彼女には決して見られなかった姿だ。
しかし彼女はすぐに本を閉じ、鞄に視線もやらずにしまいこんだ。外を眺める彼女は、器用に本を読むことも出来ず、ただ混み合う車内から逃れるように外に顔を向けていた以前の彼女とは、明らかに違っていた。