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篠原美也子文庫

第六夜
1994/03/30-1994/04/27

【真夜中の青春小説 】
【春になれば 】



【1】
<記:篠原美也子>
1994/03/30


卒業式を終えたばかりの校庭には、
卒業生を囲む後輩達の輪がいくつもできていた。


色紙や贈り物を渡す者、
第二ボタンをねだる女生徒、涙、歓声。

声にならないざわめきの中で、
僕は男子バスケ部の先輩達と握手を交わしながら
誰にも気付かれないよう、
そっと体の位置をずらした。


たくさんの背中のむこうに、
卒業証書の筒と一輪のカーネーションを抱え、
やはり多くの後輩達に囲まれている彼女がいた。


懸命に笑顔を作ろうとしながら涙を溢している彼女。

入学したての春、何気なく覗いたバスケ部の練習で彼女を見かけ、
僕はすぐに入部手続きをした。


あれから二年。
誰にも話したことはない、特別な言葉を交わしたことも、
まして打ち明ける勇気も持てないまま、


彼女、
美也子先輩は四月から高校生に、僕は中学三年生になる。


こんな特別な春があるなんて。


キャプテンの後藤先輩の挨拶を聞きながら、
僕はいつまでも美也子先輩の横顔を見ていた。



【2】<記:サイトウマサキ>
1994/04/06


その美也子先輩に告白できないまま時間だけが過ぎた。


今は三年生最後の夏。

全国大会の予選が始まっている。

我がバスケ部は何とか勝ち進み、
あと一つ勝つと全国大会に手が届くのだった。


学校ももう休みだが、今日も朝から練習をしている。

暑い中の長く苦しい練習でやっと昼になった。


「んぐぐ、はぁ、うるさいセミだな。」

「そうだね。」


蛇口の横に現れたのは、
バスケ部のマネージャー、麻衣子だった。

彼女は美也子先輩の妹であり、
唯一僕がまともに話をできる女性だった。


「あと一つで全国大会だね。」
力強く彼女は言った。

「そうだね」
僕はカラ返事だった。

「またそんな顔して。」
続けて麻衣子は言った。


「今度の試合、お姉ちゃん見に来てくれるらしいよ」
思いがけない出来事だった。

僕の胸は高鳴った。
そして絶対に勝とうと思った。


「少しは元気出た?」
そう言った麻衣子の顔を見ると嬉しそうでもあり悲しそうでもあった。


しかし、今の僕には、
彼女の複雑な顔は目に入っていなかった。



【3】<記:デンジャラスK>
1994/04/13

樹々の葉が散り始めた。

僕の心の樹はとっくに枯れていた。

あの全国大会の予選の決勝の日、
僕は客席で美也子先輩が応援しているのを見て燃えた。


しかし、ダメだった。

その時、ふっと美也子先輩が見せた寂しげな表情が頭に焼き付いて離れない。

美也子先輩の夢も、僕の夢も崩れてしまった。


今日は秋も深まった日曜日。
なんだか僕は歩きたくなり、別に目的もなく学校へと歩いていた。


「もう受験だなあ」
とつぶやくと、


「お姉ちゃんの学校受けるんでしょ?」
と言う声がした。

振り向くと麻衣子がいた。

図星だったため、僕が何も言えずにいると、


「しっかりしてよ片山君、あなたらしくないわよ。」
と麻衣子が言ってきた。


僕が黙っていると、
「私は元気いっぱいのキミが好きなのよ。」

と言って、にっこりと笑った。

その表情がとても可愛かった。
僕が茫然としていると、麻衣子は駆け足で行ってしまった。


突然の麻衣子の告白で、
僕は麻衣子をただの友達と見れなくなった。

心の中は散らかっていた。



【4】<記:ベガハベガデモオクトベガアラタメ
メザセダービーバアイネスサウザー>
1994/04/20


まだ心の整理がつかないまま、
ただ時だけが流れた。


今夜は聖夜。

ライトアップされた街の光を受けて、
僕はすれ違う恋人達を後目にただ一人歩いていた。


しかし、聖夜という華やかな雰囲気とおは対照的に、
僕の心は迷いに満ちていた。


数分後、僕は校庭のバスケットコートに立っていた。


特に理由はなかった。

ただここに立っていると
何もかも忘れることができると思ったからかもしれない。


何気なく周囲を見回すと、
しまい忘れたボールがひとつ、寂しそうに転がっていた。


僕はそのボールを取り眺めているうちに、
美也子先輩のことを想っているときの自分と、

麻衣子に告白され異常に胸が高鳴ったときの自分が交錯し、
どちらが本当の自分であるか
判らなくなっていた。


ティン、ティン。


ボールをつくうちに、
麻衣子のことばかり考え始めている自分に気付いた。

その夜以来、麻衣子のことを考えている時間が
増えたような気がする。


そして、今までもつれていた心の糸が、
次第にほどけていった。


【5】<記:セヤノオトコ(ヤマナヒデユキ)>
1994/04/27


麻衣子は順当に、
僕は奇跡的に美也子先輩の高校に合格し、晴れて卒業式を迎えた。


式典後、校庭は別れを惜しむ生徒でざわめいていた。


そんな涙と歓声の中、ぽつんと麻衣子が僕を見つめていた。

麻衣子は弱々しい目で近づき、


「片山君の気持ちは、
私じゃなくお姉ちゃんに向いているのはわかってたんだ」 と、
切なく呟いた。


そして、駆け足で去っていこうとする。

麻衣子は気付いていたのだ。


しかし、聖夜以来、僕は麻衣子を誰よりも大切に想い始めている。

「違うんだ」と言ったが声が届かない。
後ろ姿が、どんどん小さくなる。

今、この瞬間に気持ちを伝えなければ、
ボタンの掛け違いのように
互いの感情がずれていってしまう気がした。


その時、ふっと全国大会予選の決勝で、
美也子先輩の応援する姿が頭に浮かんだ。

"がんばれ、片山君"

と、あのときと同じ声援がどこかで聞こえた。


その一言でなりふり構わぬ勇気が湧いた。


僕は麻衣子の心を離すまい、と思った。
そして、桜並木を走る麻衣子を追った。


[完]


採用+最終選考


1994/03/30
【1】<篠原美也子>


1994/04/06
【2】<記:サイトウマサキ>


1994/04/13
【3】<記:デンジャラスK>


1994/04/20
【4】<記:ベガハベガデモオクトベガアラタメ
メザセダービーバアイネスサウザー>


1994/04/27
【5】<記:セヤノオトコ(ヤマナヒデユキ)>



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