昭和38年以前の僕の住む東京郊外の戸越銀座辺りは未だ下水道が整備去れて居なかった。
さすがにポットン便所は小学校位で家は水洗で有るのであるが所謂簡易下水道(かんいげすいどう)と言う生活汚水を受ける浄化槽と言う装置がトイレの排水を受ける室外の庭等に有り汚水を受けて上澄みの水を敷地外の側溝(みぞ)に流す構造と成って居て上澄みの水以外の固形物は浄化槽に貯まって行くと言う仕組みだった。
従って上澄み以外の固形物は浄化槽の中に貯まると言う事は、浄化槽の容量を上回るオーバーフローと成ると恐ろしい事態が起きる、固形物が浄化槽の外へと溢れ出すので有る。
其の事態を避ける為に数ヵ月に一度汲み取り屋さんを呼ぶと東京都のマークを付けた汲み取り車、バキュームカーが来る。
地味なグレー色で蛇腹(じやばら)の太い布地色のホースを背中にのせ、大きなタンクを背負って来る。
後ろから見ると断面が楕円のタンクの立てにガラスの溝が有り、内容の固形物が溢れない様に見えると言う仕組みが又リアルだった。
因みにバキュームカーの側面やら後部は思い出せるが、フロント部分は記憶していないので僕の中では幻の車に成って居る。
街中でも行き違つたとしても、彼方から来るバキュームカーのフロント部分はこれ又記憶して居ないのである。
強烈な臭気と楕円のタンクにインジケーターの汚物色は今だに記憶する所だ。
更に夏場とも成ると一段と走り去るバキュームカーの後ろ姿とにおいは鮮烈だから夏休みでたむろったチンパンジーどもは走り去る車にスカンクが通~等とふざけるのだがその場に居た学級委員長の伊能くんが、君たち!。
真面目に勤務する労働者に対して、ふざけた言動は不謹慎だ~。
と言うから、想わずバキュームカーに御免なさい。
真夏の陽炎幻バキュームカーが走って行く。
2024年8月7日