先日の日能研公開模試(6年生)の結果を見て思うところがありましたので、少しお話を。
単位換算の計算問題の正答率が 51% でした。
ちなみにその正答率 51% の問題がこちらです。
(※一応、難易度を損なわない程度にほんの少しだけ変えてあります)
この記事を書いているのが2021年11月21日なので、約3週間ほど前の2021年10月31日に行われたテストです。
日能研公開模試の成績分布は中学受験生のほぼ平均くらいの感覚です。
(サピックスオープンの下、首都模試の上くらい)
この結果は、中学受験生の2人に1人が単位換算が苦手である、と言っても過言ではありません。
正直なところ、もう少し正答率が高いと思ったので、この結果はやや意外でした。
本番まであと3か月という6年生の10月31日ですよ。
この事実をどう受け止められますか?
4年生から単位換算を学習し始めて2年以上学習しているのに、毎日の計算練習で訓練しているのに、なぜこれほどまでに単位換算が苦手になってしまうのか?
私は次にあげる3つの事が原因だと強く感じています。
(1)多くのテキスト、問題集で採用されている導入や解説が使い物にならない。
皆さんお持ちのテキスト類の解説をご覧ください。どれも似たり寄ったりです。
テキストを一緒に見ながら、単位換算が苦手な我が子に、だってこう書いてあるでしょ?こうなってるでしょ?なんでできないの? と業を煮やした親御さんもいらっしゃると思います。お子さんを責めてはいけません。
単位換算が苦手な子供たちは、なぜその式になるのかが理解できていないのです。
(2)単位換算に特化した授業がほとんど存在しない。
単位換算の種類は、おおむね、長さ、重さ、時間、面積、体積(かさ)、速さの6種類があります。中学受験塾のカリキュラム自体が特殊算ごとの学習スタイルになっているので、単位換算だけの授業回を作ることは難しいのが実情です。
現場ではどのようになっているかと言うと、例えば、面積の単位換算なら相似の回でさらっと触れ、時間の単位換算なら速さの回でさらっと触れ、体積の単位換算なら水の体積の回でさらっと触れる、という具合です。
なぜ「さらっと触れる」のか?
それは限りある授業時間では単位換算の習得まで手が回らないのが実情だからです。
授業では特殊算の基本的解法の解説を最優先すべきであり、かつ、それらを習得するための問題演習に時間を割いていると、どうしても単位換算の練習まで時間が取れません。しかし、やらないわけにはいかない。したがって、「さらっと触れる」ことになってしまうのです。
では単位換算はどこで練習するのかというと、どこの中学受験塾でもおこなっている、サブ教材の毎日の計算練習的なものに大抵含まれているので、そこで生徒自身が独学で身につけているのが実情です。塾側としては「なんとか自分でがんばってねー」という感じでしょうか。
その結果、受験生の約半数はできて半数はできないという現象に陥っていると思われます。
(3)指導者が、最初から単位換算=すべて知識(たんなる暗記)だと割り切って教えてしまう。
暗記というのは極端に言えば、ある種の思考停止状態に持っていくことを意味します。導入の時点でこれをやってしまうと、その先生に教わった生徒さんたちは悲惨です。算数の指導者として絶対にとってはならない悪手です。
確かに覚えることは少しはありますが、それをいかに最小限で留めるかが大切なのです。
覚えることはできるだけ少なくして、すでに使える知識や技術を転用しながら新たな技術を磨く。
これです。算数はこのスタンスを崩さないように学習するのが、結局のところ、遠回りなようで一番近道です。
その分浮いた暗記作業の時間は国語、社会、理科の知識の暗記に回してください。中学受験生には限られた時間しかありません。
信じられない話ですが、こういった先生が一定数いらっしゃいます。
生徒がわからないのに、力がつかないのにすべて知識・暗記だとバッサリ切り捨て、ひたすら通り一辺倒のやり方でしか解説せず、しかもその解説はテキストや問題集の模範解答のコピペそのまま。授業中にわからなくなって質問したくても、周りは皆できてる様子で、とてもとてもできる雰囲気ではない。
かつてこんな先生もいました。
私の家庭教師の生徒さんで単位換算が大の苦手の生徒さんの話です。こちらの生徒さんが6年生の3月ころ家庭教師を受け持ちました。
こちらの生徒さんは、特に面積の単位換算が苦手なお子さんでした。そこで私が懇切丁寧に図を用いながら指導すると、みるみる内にコツをつかんでくれて、基本的な問題はできるようになりました。
ところが、通塾している算数の講師からダメ出しを食らったとのこと。
詳しく状況を聞いてみると、塾に提出した計算練習ノートの面積の単位換算のところに、この生徒さんが書いた正しい途中計算の図の部分を斜線で打ち消し、図を書くな!計算式のみでやれ!と赤ペンで殴り書き。(もちろん何の間違いもなく完璧に正解している設問)
この先生は、自分自身が小学生だったころ、分からなかった問題はなかったのでしょうか。子供の頃、当時の先生から教わり、何度も練習してここまでできるようになったことを忘れてしまったのでしょうか。
確かに図を書くのは最速とは言えないでしょう。
しかし、技術の習得には段階があるはずです。図を書くのは面積の単位換算の本質を視覚的にとらえながら理解しようとしている事を意味します。
この生徒さんは手も足も出ないズタボロの段階から、図を書いて理解できる段階まで這い上がってきたのです。
このパターンに入れば、何度も図を書いているうちに、しだいに頭の中で図を書くスピードが、手を動かして図を書くスピードを追い抜いてしまう時が必ずやってきます。その段階まで来たら図を書くまでもなく、余裕で解けるようになったということです。つまり面積の単位換算の本質をつかんだということです。そこからさらにお子さん独自の方法でブラッシュアップを図り、さらにスピードをつける。
そうなってくると式すら書かずに単なるメモ書き程度でサクサクできるようになるでしょう。
この鍛錬の過程を無視して、また、その方法論も示さず、いきなり完全体になれと。
ちなみにこの先生は、こちらの生徒さんが5年生のときも算数担当でした。一体誰のおかげでここまで単位換算が苦手になってしまったのか?この生徒さんが単位換算で苦しんでいたのを当然知っていました。それなのにです。
大手塾といえども色んな先生がいらっしゃいます。塾の先生ガチャは運が左右します
私も大手塾の内部にいた人間です。実情を色々知っています。怖いですよ。
もう一つ、今度は大手塾勤務時代のエピソードを少しお話します。
算数の授業時間前の一コマ。
教室に登校してきたとある6年生の男子生徒A君が嬉々としてあるものを教室に持ってきました。
A君はクラスで一番算数ができるお子さんで、4、5年生の時は別の先生に算数を習っておりました。
A君がいそいそと持ってきた何かの学習雑誌の付録についてきたこれ
A君 「先生すごいもの見つけた!」
私 「これなに?(それを目にした私はとっさに、あああ、まずいなこりゃ・・・)」
A君 「これでもう単位換算は大丈夫!」
授業前の時間だったので、すでに塾に到着している他の生徒さんも「なになにー?」とA君の机の周りを取り囲みます。
他の生徒B 「すごーい!」
他の生徒C 「わたしも欲しい!」
他の生徒D 「どうやって使うの?」
得意げに「例えばどうやって使うかと言うと・・・」と定規をカチャカチャやり始めるA君。
「・・・・・・(あらら、本当にまずいぞ・・・・)」
「すごく便利だね!」と私。しかし、すかさず、「テストの時はどうするの?テストや入試で使うと不正行為になっちゃうね・・・」と言いました。
するとA君は5秒くらい考えて「書く!」と言いました。
「え!?・・・何をどこに書くの?」と私。
「テストが配られたらこの定規の絵を問題用紙の上に書く!」
エッ・・・( ̄ロ ̄lll)
「それは無理でしょ・・・」という私の意見に立ち向かうかのように、今度はノートにその定規の絵を何度も描きはじめました。目盛りまで・・・。
おそらく4、5年生で単位換算の苦手意識を強烈に刻み込まれたのでしょう。かつ、算数が得意なはずの自分が、なんで単位換算ができないんだろう・・・と追い込まれ、あげくの果て、この定規を手に入れたとたん、これ幸いと、これまで眼前にどんより立ち込めていたモヤがササーっと晴れたような気持になったにちがいありません。
その後、A君は休み時間になると、この定規の絵を何度も描く練習をしばらく続けていました。
2週間くらい経ったころでしょうか、私がA君に例の定規の絵を描く件はどうなったのか尋ねると、
A君 「先生の言う通り描くのもうやめた!」
私 「やっぱりそれがいいよ。単位換算は単なる知識や暗記ではなく、おさえるべきポイントをしっかりおさえて、練習すればきっとできるようになるから」
A君は苦笑いしながら「先生、今度しっかり教えて」と言いました。
私 「いいよ!」
それ以降、A君は授業前にちょくちょく質問に来るようになりました。
幸い6年生の面積の単位換算の授業(相似)はもう少し先だったので、そこでもクラス全体にしっかりわかりやすい授業をしようと心に誓いました。
もう一度言います。「かさ・体積」、「面積」、「長さ」、「重さ」、「時間」、「速さ」のすべてを単なる暗記項目として覚えこませ、問題を解かせるのは指導者として絶対にとってはならない悪手です。
参考までに単位換算をまとめた、とある大手塾の計算問題集の解説を載せておきます。
これは「かさ・体積」の解説、冒頭部分に記載されているものです。
すべて正しい事が書いてあります。しかし、このまとまりの無さ具合は一体なんでしょう。
非常にちらかっています。バラバラ。
一体どれだけの子どもがこれを楽しんで覚えるというのでしょうか。
わーい♪こんなに暗記できてうれしくてしょうがない!単位換算大好き!
となるとでも言いたいのでしょうか。
ちなみにこの解説書を読み進めてみると、直後の例題では、
8dL=( )kL
の問題が載っています。
いきなり、dL → kL の変換ですか?
こんなふうな教材をもとに暗記だ、知識だとさんざん言われ、言われるがままに練習してもいっこうに上達しない、仕上がらない。解説を見ても0(ゼロ)がたくさん出てきて、頭の中がウワーーーーとなるだけ。
その結果、単位換算苦手受験生が量産されているのです。
単位換算が苦手なお子さんの頭の中がどのようになっているかというと、こんな感じなのかなと想像できます。
ちらかっている教材をもとに指導者から単なる暗記、知識だと教わり続けると、生徒自身の頭の中もこのようににちらかってしまうのでしょう。
私が数多く見てきた、単位換算が苦手な生徒さんはまさにこんな印象でした。
知識だ、暗記だ、とさんざん言われ、サクサク正解する他の受験生を目の当たりにしつつ自分はいつまでたってもできない・・・。
その結果、6年生11月の段階で正答率約50%という事態に陥ってしまっているわけです。
今回は、なぜ多くのお子さんが単位換算が苦手なのか、について話しました。
また機会がありましたら、私の指導法などもいずれ紹介できればと思います。
お読みいただきありがとうございました
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