ポアロの客《1/2》(新快前提  赤井×安室)
※純黒余波パラレルです(*_*;

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「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

遅番を任された晩、そろそろオーダーストップという時刻に喫茶ポアロに現れたのは年若い一人の男だった。
もしや赤井ではと心臓が跳ね、違うと分かり落胆した。
そして胸の内で舌打ちする。腹立たしいのはこんな自分に対してだ。

「ハムサンドと珈琲」

「少しお時間かかりますが」

頷いたその客はカウンターのぼくの前を通過し、一番奥の座席に着いた。数日前、同じようにふらりと現れた赤井が座った同じテーブルの同じ席に…。
慌てて息を吐き、甦りかけた芯の残り火を吹き消す。

オーダーストップ時刻を過ぎたので先に店のドアに『閉店』の札を出し、看板の電源を落とした。
それから徐にハムサンドを作る準備を始め、珈琲の豆を挽くスイッチを押す。

若い男は黒いキャップを被ったまま、携帯電話をいじるでもなく席に収まっていた。時折ぼくの作業を見守るように僅かに顔を上げる。

目が合ったので、ぼくはにっこり微笑んだ。

「……」

意図せず他者とまともに目が合うと、人は慌てて目を逸らすものだが、その客の瞳は動かなかった。微笑むぼくの目の奥に何が在るのか、覗き込もうとするかのように。

改めて、ぼくもその客を観察することにした。
まだ若い。少年と言っていい年頃に見える。せいぜい16~17歳。高校生か。

こんな時間に一人で喫茶店に入り食事を採るような高校生とは、どんな類の人間だろうか。
組織に潜入してから(名高い高校生探偵に正体が露見したとはいえ)〝探り屋〟として培ってきた自分の観察眼には自信がある。

ただの不良生徒とは違うようだ。

パッと見でそれは判る。荒んだ雰囲気も軽薄さも感じない。そのかわり、あまり自然とは思えないこの状況に於いてやけに落ち着いて───独りで知らぬ場所へ潜り込むことに慣れている。そう見えた。

客が口を開く素振りがないのに店員が無闇に話し掛けるのは御法度だ。ゆっくり過ごしてもらいたい。あくまでぼくが〝店員〟で、この少年が純粋な〝客〟であるなら…の話だ。
しかしどうやら違う。
肌に覚えるのは、ピリピリとするような鋭い気配。まるで敵意のように。

直感だが、間違いない。この少年は、ぼくが〝何者か〟を探りに来たのだ。

だが、何故。

それを知るには、やはり〝当たる〟ほかないようだ。
しかしここはポアロの店内で、上は毛利探偵事務所。下手に刺激して万が一にも暴れられたりしては困る。

不自然な動きに見えないよう気遣いながら、ぼくは自分のバッグから薬品の小瓶を取り出した。珈琲をドリップする前のカップの底に、透明な液体を数滴垂らす。
組織から支給されている無味無臭の、いわゆる睡眠導入剤。自白剤の効用もある。
効けばウトウトと眠くなり、精神的にも無防備になる。警戒心が薄れ、何に対しても素直になるという代物だ。

いまのぼくは公安の降谷零ではなく、〝バーボン〟こと安室透だった。
公安としてではなく、黒の組織の一員として、この来訪者の真意を確かめる必要がある。

この黒衣の少年が、ぼくの何を探りに来たのか──を。





ポアロの客《2/2》へつづく

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※ひゃー、こんなん書き出しちゃってどうしましょ(汗)。『純黒』効果で、このところpixivでは赤安検索しまくりで。いずれ一本くらいは赤安ネタも書いてみたいかも…ですが、手始めはこんなトコからってことで快斗くんを巻き込んでみたり (*_*;
〝赤安前提〟ってとこが一番の目標ですが、どこまで書けるかな~(><)"

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