夏の終わりのファンタジー(新一×快斗)
※新一視点。───────────────────
快斗のやつ、オレが帰ってきてからずーっとブスッとした顔してやがる。
話しかけてんのに、ろくに返事もしねえ。
ワガママなヤツめ。言いたいことがあるなら言えばいいのに。
オレから離れて窓辺のチェアに座り、拗ねたように頬を膨らませてこっちを睨んでいる。
かと思えば、オレと目が合いそうになるとサッとそっぽを向いてしまう。
ガキだな。
普段なら『なに怒ってんだよ』と若干切れ気味にオレから突っかかっていくところだが、今夜は時間に余裕がある。オトナの対応で少しばかりガキをからかってやろう。
「どうぞ。珈琲煎れたぜ」
ほれ、いい香りだろ。飲みたくなるだろ。
日夜オレが研究を重ね、自分で焙煎して自分でブレンドした門外不出のオレ専用スペシャルだ。特別に振る舞ってやるぜ。
窓辺まで持って行って、目の前にふわりとカップを差し出す。ほれほれ。いい香りだろ。こっち向け。
「どうぞ」
もう一度穏やかに声をかけると、快斗がチラッとカップを見た。
「・・・・い」
「どーぞ」
〝いらねえ〟と言おうとしたのかも知れない。
しかし、結局香りに抗えなかったのだろう。ムスッとした顔のまま、快斗はオレからカップを受け取った。
やったね、オレの勝ち。
チョロいもんだぜ素顔の怪盗なんて。
快斗が珈琲を一口啜ったところで話しかける。
「旨いだろ? 快斗のために用意しておいたスペシャルブレンドだぜ」
ウソだけど。オレ用スペシャルだけど。
「…ああ」
「ははは」
横顔の快斗の頬に少し赤味が差してる。くそカワイイ。
「快斗、どっか具合でも悪いのか?」
「………」
「さっきから大人しいけど、どうかしたのかよ」
「工藤……」
「うん?」
折れる気になったか。優しく先を促してやる。
「言いたいことがあるなら言えよ。大好きな快斗のためなら、オレが出来ることなら何でもするぜ」
「本当か」
「もちろん」
「────それじゃあ、一つだけ…頼みがある」
「一つとか言うなよ」
「成仏してくれ」
「ジョウブツ…?」
なんの冗談だよ。
言おうとしたら、足元にすうっと冷気が這った。
チカチカと灯りが瞬き、部屋の照明が暗くなる。
「工藤……おまえ、やっぱり解ってないんだな」
なにが。
何の話だよ?
「たまらないんだよ…。いつまでも気付かずに、ここに居るおまえを見てるの」
「だから…気付かないって何がだよ?」
快斗が振り向く。
今夜初めてまともにオレに顔を向けた快斗の頬が、濡れていた。
大きな瞳が潤み、まるで深く悲しんでいるかのように眉をひそめてオレを見つめている。
「工藤…。足……」
「アシ…?」
下を向いた。暗いのでよく見えない。冷気が膝下を覆っている。
足が、ない。
いくら動かしても、膝から下が見えない。
窓から射し込む微かな月明かりだけがオレと快斗を朧に映している。
輪郭は曖昧で、ここがどこかも判らなくなる。
どきん、どきんと胸が震え、喉が渇く。
耳の奥にキーンという異音が響いていた。
「まだ気付かないのか、工藤」
「………」
何を言うつもりだ。
言うな、それ以上。
「どうして一人でいっちまったんだよ……。俺を残して」
────なんだって…?
「工藤のバカやろう。なにが高校生探偵だよ。事件の度に危ないところに飛び込んで行きやがって…。いつかこうなるんじゃないかと思ってたんだ!」
何…言ってんだ…快斗?
「幽霊のおまえに逢ったって、ちっとも嬉しくねえんだよ!! 悔しかったら生き返ってみろよ、何でもしてくれるんだろ? 俺のために、何でも……!!!」
快斗が泣き崩れる。
肩を戦慄かせ、嗚咽している。
馬鹿な…。
何言ってんだよ。
オレが……幽霊だって?
そんなわけ、ない…だろ───?
快斗が窓の桟に置いた珈琲カップ。
空だった。
さっき快斗に渡したばかりで、快斗はまだ一口しか飲んでないのに。
珈琲の香りも消えていた。跡形もなく。
なぜ……?!
「好きだったよ、工藤…おまえが。だけど、これ以上おまえを見てるのはつらいんだ。自分がもうこの世にいないって気付かないでいるおまえを見てるのは、つらすぎるんだよ。お願いだから、安らかに眠ってくれ──!!」
世界が暗転する。
そんな。
オレは………
オレは、死んだのか…?
ひとりで。
快斗を残して。
そんな。うそだ。
嘘だぁぁーーーーーっ!!!!!
「あっはっは。少しはヒンヤリした?」
「・・・・ああ??!」
ぜえっ、ぜえっ。
吐く息が震えていた。
明るい。灯りが点いてる。
恐る恐る、自分の足を見た。
ある。
「あれ…?!」
ちゃんと足がある。
「工藤が帰ってくる前に仕込んどいたんだ~。たぶん珈琲煎れてくれるんじゃないかと思ってさ、空のカップと、ドライアイスと、あとマジックで使う強力消臭スプレーも!」
「・・・・」
「夏休み最後だってのに、帰りが遅せーんだもん。軽く仕込むつもりが、やり出したらつい凝っちゃって」
「快斗」
「ん?───ぐええっ!」
オレは快斗をとっ捕まえて、悔し紛れに抱き締めた。文字通り全力で、これでもかとギュウギュウに締め付けた。
今夜の勝負は、怪盗の演技力にしてやられたオレの負けだった。
クルシイ、ギブギブ、工藤、ユルシテ、と唸る快斗を抱き締めたまま、オレは快斗と一緒にカーペットにひっくり返った。
床に残るドライアイスの煙がひんやりとして、気持ちよかった。
20140831
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※えー映画シックスセンスのパロ的な?ありがちネタでお粗末様でした(汗)。タイトルちょっとズレてるかもですがご容赦を~(*_*;
●拍手御礼
「グッナイ・サマー・バースデーII」へ拍手ありがとうございました!(^^)!