こういうこと《1/3》新一×キッド

―――――――――――――――――

探偵に誘われて、俺は探偵の自宅を訪れた。

真夜中、人通りの途絶えた街を駆け抜け、そこだけ明かりの灯されたバルコニーに舞い降りる。
探偵は自室のベッドに寝転んで俺を待っていた。

「よくきたな」

そう言って起き上がると、探偵は俺をマントごと抱き締めた。そしてベッドに俺を押し倒した。

「……え?」

と、俺が探偵を見上げると、探偵も

「え?」と俺を見下ろして首を傾げた。

「オーケーなんじゃねぇの?」

「何が」

「こういうこと」

「…………」

こういうことって何だ。
この状況から予想される探偵の行動といえば。――んなバカな。
探偵が唇を寄せる。うそ。

「ち、ちょっと待て!」

「何だよ。まさか初めてで恥ずかしいとかコワイとか言うんじゃないだろうな」

「…………」

そのまさかだ。当たり前だ。そんな経験あってたまるか。しかし探偵の〝上から目線〟がシャクに触ってそうとは言えない。
それにしても俺をいったい何だと思ってるんだ。

「何か……謎解きしてやるからとか言わなかったか」

「ああ。おまえの本性全部暴いて怪盗の謎を俺は手に入れるのさ」

ガチャリと音がして左の手首に金属の輪がかけられた。

「おい! 何すんだ!」

間髪入れず手錠のもう片方がベッドヘッドの柱に繋がれる。まじかよ。一気に青ざめる俺。信じられない。いったいどうして――なんだってこんな目に。ノコノコ犯られに来るなんて、怪盗のクセに俺ってば間抜けすぎる。

ニヤリと笑う探偵の熱い視線が、まんまと捕まえた愚かな獲物に注がれる。探偵の目はこの機会を逃す気はないと言っていた。

「暴れんなよ。逆らったらひっくり返して手足全部縛り付けるぜ」

「ふざけんな! 放せ! 俺はそんなつもりできたんじゃないっ」

「甘い」

そう。すでに探偵の手中に落ちた俺に選択権はなかった。

「くっ…!」

ポケットに差し込んだ右の手首を掴まれ、捻り上げられる。閃光弾がシーツの上にぽろりと落ちた。

「往生際が悪いな。どうする。やっぱり全部縛り付けるか」

目の前の探偵の瞳に映る自分を見ながら、ぶんぶんと俺は首を振った。
それは…避けたい。いくらなんでも初体験でそんなのは。万が一クセになったらどうしてくれる。てか、すでにもうそんな感じになりつつあるけど。
頭の中でだけ早口でいろいろ言ってるが実際コトバにできるわけなく、黙り込んでただ目を瞠いている俺を、探偵は観念したと思ったようだ。

「……!」

唇が合う寸前に思わず顔を逸らした。
見栄なんて張っていられない。ソーだよ俺はドーテイでバージン(?)だ。悪いか! よりによってライバルと思っていた名探偵に誘(おび)き出されて〝襲われる〟なんて――想定外も甚だしい。

俺は自分の不用意さを呪うしかなく、あとはせいぜい怪盗の誇りまで奪われないよう、懸命に声を抑えることくらいしかできなかった。




つづく