*以下引用*
絶版となった後も、専門家の間で語り継がれる一冊の本がある。1972年に初版が発行された「日本の長寿村・短命村」(サンロード出版)だ。
著者は東北大学名誉教授で医学博士だった近藤正二氏(1893~1977年)である。
衛生学を専門とする近藤博士は、食生活や生活習慣が寿命に与える影響に大きな関心を持ち、1935年から1971年の36年にわたり、北海道から沖縄の八重山諸島に至るまでの全国津々浦々990か所を、自らリュックを担いで訪ね歩き、各地で長寿に関する研究を重ねた。場合によっては1つの村に2か月もの間、長期滞在し、綿密に調査を行った。
その近藤博士が、自分の研究を口述で編んだのが「日本の長寿村・短命村」という本だ。
食生活と長寿の関係に詳しい、「イシハラクリニック」院長の石原結實(ゆうみ)医師も、その本を大切に所有する1人だ。
「医学生の頃に手に取った名著です。今でも私の知識の根本にあって参考にしています。全国各地に先生みずから足を運び、そこで、発見、考察した“食生活と寿命の関係”には鋭い先見の明があり、現代にも通じる知恵であふれています」
近藤博士の研究には、随所にこだわりが見られる。その1つが、「平均寿命という数字を使わないこと」だ。
たしかに、その村の住人の死亡年齢を単純に平均すれば、「村の平均寿命」は導き出すことができる。ただし、それでは「長生きする村民がどれだけいるか」がわからず、それこそが重要な点だと、近藤博士は考えた。
そこで、近藤博士は「人口における70才以上の高齢者の割合(長寿率)が高い村」を“長寿村”と呼び、「若年死が多く、70才以上の高齢者が少ない村」を《短命村》と定義した。1950年当時の全国の平均寿命は男女ともに60才程度。現在よりも、女性でいうと25才以上も短い。そんな時代に「70才以上」といえば、かなりの“ご長寿さん”だ。博士は、「どうすれば長寿になれるか」に徹底的にスポットを当てたという点で、当時から異色の研究だった。
今も色あせることはない
最終的に近藤博士が口述したものを編んだこの本は、発刊後、十数度の増版を重ね、一部の研究者の間で“伝説の一冊”と知られるようになった。1991年には「緑黄野菜・海藻・大豆の食習慣が決める 新版 日本の長寿村・短命村」として生まれ変わったが、現在は出版元が閉じるなどし、残念ながら絶版となってしまっている。
視線を現代に戻そう。ここ数年、医師による食事解説本が一大ブームになっている。そのブームに先鞭をつけ、計64万部を売り上げている「医者が教える食事術 最強の教科書」(牧田善二著・ダイヤモンド社)では、その序章で近藤博士の「日本の長寿村・短命村」を紹介している。
「近藤博士のフィールドワークと最新データには驚くべき共通点がある」とし、「内容は今も色あせることなく、現代に生きる私たちに非常に重要な示唆を与えている」と高く評価している。
また、発売10日で10万部という驚異の売り上げを記録した「世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事」(東洋経済新報社)の著者、UCLA助教授で医師の津川友介医師も「同じ日本人であっても、住んでいる場所によって寿命が異なることに注目した研究が、当時行われていたことは興味深い」と話す。
近藤博士の情熱は、あなたのこれからの人生に大きな影響を与えるはずだ。本記事では、紙幅の関係上、著書の内容をすべてお伝えできないのは残念だが、そのエッセンスをお届けしたいと思う。
近藤博士が見出した「長寿村・短命村」に共通するルールとは一体どのようなものなのか。
白米の大食で早死に
消化もよく、食物繊維も含まれるため「白米は食べるべき」だとされていた当時、近藤博士は衝撃的な発見をした。
東北地方の米どころ、とくに秋田県の村では、成人が1日に6~7合という大量の白いご飯を食べる習慣があり、おかずとして、大根やなすのみそ漬けなど塩気があるものを添えていた。これらの村では稲作は盛んだが、畑を作らないので野菜はほとんどない。そのように米を大量に食べ、野菜をとらないという食事を若いときからしている村では、40才頃から脳溢血で倒れる村民が多く、亡くなったり、後遺症を抱える人の割合が高い短命村であった。
同様に、三重県の南島町(現在の南伊勢町)の漁民集落や須賀利(同・尾鷲市須賀利町)、桂城(同・紀北町)、石川県輪島など白米を大食する地区で短命の傾向が見出されている。
一方、多くの長寿者がいる村では米をあまり食べていないという傾向に、博士は気づいた。代表的なのは、島根県の隠岐島や鹿児島県の沖永良部島。70才以上の長寿率が通常4%程度のところ、7~8%もあったのだ。沖永良部島での調査で興味深いのは、島内で唯一田んぼを持ち、米を偏食する後蘭(ごらん)集落だけが短命であったことだ。
厚生労働省と農林水産省は共同で、健康的な食事の指標として「食事バランスガイド」を制定している(2005年)。それによれば、1日に茶碗3~5杯のご飯を食べることが推奨されている。
しかし、前出の津川医師はこう話す。
「白米の摂取量はできるだけ減らした方がいいことを示すエビデンス(科学的根拠)がいくつも出ています。世界的権威のある英国の医学雑誌に、白米の摂取量が1杯(158g)増えるごとに糖尿病リスクが11%上昇したという結果があるほか、日本人を対象にした研究でも、白米をとればとるほど糖尿病になる可能性が高くなることが明らかになっています」
ただし、これが玄米であれば違ったはずだ、と津川医師が続ける。
「白米や小麦粉のような精製された白い炭水化物は血糖値を上昇させ、脳卒中や心筋梗塞など動脈硬化による病気のリスクを高めることがさまざまな研究によりわかっています。ただし、玄米や全粒粉などの精製されていない茶色い炭水化物は逆に心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などのリスクを低下させると報告されています。1日50gの白米を玄米に置き換えると、糖尿病のリスクが36%下がると推定されています」
最先端の研究結果を踏まえても、白米の摂取量は減らした方がいい。今から50年以上前に、常識を疑い、警鐘を鳴らしていた博士の研究には驚嘆するばかりだ。
鹿児島県の沖永良部島は、近藤博士の定義した70才以上の人の割合を示す長寿率が島全体で9%にも達する長寿島だった。若者が村外に出てしまうと長寿率もおのずと高くなってしまうため、近藤博士は人口移動の少なかった村を調査対象に選んだ。
島内の国頭村では当時96才のおばあさんが現役の機織り職人として働き、髪もまだ半分黒いと記録されている。肉や米を避け、畑で大豆を作って豆腐やみそにしてたくさん食べていることが長生きに役立っている、と近藤博士は結論づけている。
博士は、沖縄の八重山諸島でも大豆の摂取で長寿を実現している村を発見した。それが竹富島だ。長寿率は驚異の16%にのぼり、80~90才の高齢者たちが畑仕事や織物仕事などに従事していた。繰り返すが、平均寿命が60才程度の時代のことである。
かつて同島では米をまったく作っておらず、主食はさつまいも。そこに前我名釜多という人物が大豆を持ち込み、島民に奨励した結果、大豆食が広がった。それ以外には粟や稗、にんじん、大根などの野菜を栽培。大豆以外にもうずら豆という豆を作っていたが、これも前我名の指導だったようだ。
岩手県の標高400mの山あいにあり、ほとんど動物性たんぱく質を摂らずに健康長寿を実現していた村は、現在、岩泉町に併合されている有芸村だ。
宿で「“山の魚”を召し上がれ」と言われた近藤博士は、それが二丁重なった大きな豆腐であることに仰天した。村人は毎日それを食べるが、豆腐屋はない。娘たちは豆腐作りを覚えてから嫁入りをする風習があったという。村民は大豆が魚のようにたんぱく質が豊富であることを、経験則的に知っていたのだ。食生活と長寿の関係に詳しいイシハラクリニック院長の石原結實医師がこう解説する。
「大豆はコレステロールを抑制し、高脂血症を予防するリノール酸やリノレン酸、脳の働きをよくする大豆レシチンなどが含まれています。
その上、血行をよくしたり、強力な抗酸化作用のあるビタミンEも豊富でがん予防効果も期待できます。そのままでは繊維質が多く、消化・吸収されにくいのですが、豆腐や豆乳なら消化吸収率が飛躍的によくなります」
納豆として食べれば、さらなる効果も期待できると石原医師が続ける。
「大豆たんぱくが、より消化されやすいアミノ酸に分解される上、強力な解毒作用を有するビタミンB2も合成されますので、血液中の老廃物の解毒機能が促進されます。ナットウキナーゼが血栓を防ぎ、脳卒中や心筋梗塞などを予防する効果も期待できるのです」
毎日の食事に納豆を追加するだけなら、すぐに実行できそうだ。
かつて、日本各地で活躍していた海女のうち、三重県の国崎村(現在の鳥羽市)と石川県の輪島の海女では同じ職業ながら、生活習慣がまったく違っていた。
近藤博士が訪れた頃、国崎村では「男は働いてはいけない」という不文律があり、子守りや留守番をするばかりで、男性は外に出ない生活を送っていた。一方で、女性たちは早朝から畑に出て野菜を育てたあと、9時過ぎに海女装束を着て海へ。さらに午後3時頃には海から上がり、再び畑仕事をしたあと、夕飯の支度までするという重労働の毎日を送っていた。
その食生活といえば、畑で採れるさつまいもと麦が主食。また大豆やごま、各種野菜を食べて暮らしていた。米は作れないためとらない一方、魚や貝、海藻は食べた。そんな国崎村の海女たちは重労働にもかかわらず、非常に長寿だった。男性は標準的な寿命だったため、未亡人の老海女たちでいっぱいだったそうだ。
それとは対照的に短命だったのが輪島の海女だ。多くの女性たちが50才を前に、作業に出るのをやめてしまう。
当地の海女たちは「女でありながら男以上の厳しい労働をしているのだから、せめて陸に上がってきたときくらいは真っ白い米を食べ、島では食べられない肉を腹いっぱい食べたい」と、白米や肉を多食したという。
同書には「肉」がなんの肉だったのか記載されていないが、近藤博士が輪島の海女たちに「そういう食生活をしているから長生きができないのですよ」と諭すと、みんながびっくりしたという。当時、食事と健康が関連するとは考えもしない人がどれほど多かったかが窺い知れる。
近藤博士の調査は、じつは国内にとどまらず、海外にも足を延ばしている。日系移民二世、三世が短命だというのでハワイ在住の日系人の調査を手掛けたのだ。
その結果、移住した一世たちは、野菜や海藻、豆腐などを食べていたため長寿を保っていたものの、二世、三世の代になると、それらの食事には目もくれず、肉ばかり食べるようになっていた。そのため40才を過ぎた頃に心臓を侵されて早死にする人が増えたと結論づけている。
最新の知見では、肉食は健康にどんな影響を与えるのか。
前出の津川友介医師はこう言う。「2015年10月、WHO(世界保健機関)の専門機関である国際がん研究機関が「加工肉は発がん性があり、赤い肉は恐らく発がん性がある」と発表しました。
“赤い肉”とは牛肉や豚肉などの四本足の動物の肉のことです。鶏肉は“白い肉”に分類され、健康上の悪影響はないと考えられています。
多くの研究で、“赤い肉”や加工肉の摂取が多くなるほど、大腸がんになる可能性が高くなることが明らかになっているほか、脳卒中や死亡率の上昇にもつながる可能性が報告されています」
「日本人が食べる肉の量では影響が少ないのでは」との声にも津川医師はこう答える。
「たしかに日本人の肉の摂取量は世界でも比較的少なめですが、食の西洋化で日本人にも大腸がんになる人が増えていることを考えると、多食は避けた方が賢明でしょう」
肉を食べるなら鶏肉を選んだ方がよさそうだ。
三重県南島町には、平家の落人集落と、先住の漁民集落とが隣り合う地区がある。落人らが定住する際、漁民に「魚は捕らない」と約束したことから、子々孫々それを頑なに守ってきた。それが2つの集落の食生活を形づくり、寿命に差が出ていたのだ。
すぐ隣なのに、漁民集落は魚ばかり食べ、米は買うが畑を作らないため、野菜不足で短命。一方の平家の落人集落は青野菜を作り、さらに海藻を常食しているために長寿だというから興味深い。
秋田県の中では男鹿半島の戸賀村のみが海藻を常食していた。やはり脳卒中にかかる人が隣の村より少なく長寿者が多かった。
食生活と長寿の関係に詳しいイシハラクリニック院長の石原結實医師も海藻の効能をこう説く。
「ビタミンが30種類以上含まれ、亜鉛や鉄、カルシウムなどのミネラルも豊富です。中性脂肪や血圧を下げるなどの効果があるものがたくさん入っていて、健康にとても寄与します。のりやもずく、めかぶなどは毎日積極的にとりたい食品です」
長年のフィールドワークから、魚を主食とし、野菜を食べていない村は短命の人が多いことを知っていた近藤博士。それでも長寿を実現している村があると聞き、海に面した崖の上の細い道を伝うようにして歩き、兵庫県の日本海側にある竹野町(現在の豊岡市)に向かった。そこには、宇日・田久日という平家落人村と伝わる集落があった。
実際に集落には畑が見当たらず、博士は当初、長寿村であることに疑問を抱いたが、村民に話を聞いたところ、実は1里(約4km)離れたところに畑を作り、野菜を食べていることが判明した。やはり長寿に野菜は必須ということのようだ。
近藤博士は野菜の中でも、にんじん、かぼちゃ、いも類が長寿のもとではないかと注目し、それらの摂取量を村人らに確認している。
石川県の久常村(現在の能美市)は全国でも珍しく、寿命の男女差が大きかった。聞いてみれば、野菜に不自由しない土地柄ゆえに女性たちは野菜を好き嫌いせずに食べているが、男性は一切、口にしない。ゆえに男性短命、女性長寿の村だったのだ。
理由は「野菜は女の食べ物。食べると他人に笑われるから男は食べない」というもの。その考えの根本には「男の子は立派に大成してもらうために小さなことに構わず育てる」、「女の子はつつましい家庭の主婦にする」という村伝統の育て方があった。博士の調査は、そのように民俗学的側面も備えていた。
ほかにも、岩手県の真城村(現在の奥州市)では長寿者が少ないのに、ポツンと1つの集落だけが長生き。調べてみると周囲では作っていないにんじんをここだけで作り、食べていることが判明したのだった。
野菜、とくに近藤博士が強調する、にんじん、かぼちゃ、いも類には長寿を呼び込むエビデンスがあるのだろうか。
津川友介医師が話す。「これまでの研究データを総合すると、野菜が心筋梗塞や脳卒中を予防する可能性は高いと考えていいと思います。 ただし、いもは糖尿病のリスクを上げることが複数の研究で示唆されています」
酒を飲んでも長生きできる
沖永良部島の国頭村の96才のおばあさんは、毎日、黒砂糖を入れた焼酎を飲むのを楽しみにしていたと近藤博士は記録している。酒飲みの寿命は気になるところだが、現代の医学ではどう捉えられているのか。
「酒は百薬の長といいますが、私が長寿食の研究で訪れたジョージアでは、多くの人が、年をとっても赤ワインを飲んでいました。ジョージアに限らず、長寿地域の人たちは必ずその土地に特有のお酒をたしなんでいるのです」(石原医師)
「体質と量による」と津川友介医師は言う。「週100gほどのアルコール量であれば健康へのいい影響があるとの報告がありますが、飲みすぎはもちろん肝臓に負担をかけます。とくに、お酒を飲むとすぐ赤くなる人は食道がんのリスクが高いという報告があり、飲酒はおすすめしません」
塩分をとりすぎると短命
この本には「付帯調査」として、編集者である萩原弘道氏が沖永良部島の屋子母集落を調査した結果が付記されている。同集落は長寿村なのだが、高血圧に悩む人が多かった。その原因は、村人が好んだ漬物とみそ汁の塩分ではないかと推察されている。
「塩分のとりすぎは高血圧を引き起こし、脳卒中のリスクを高めることが複数の研究で報告されています。ただし、みそに関しては、大豆に血圧低下作用があることもあり、血圧を上げないという研究結果もあります。漬物かみそ汁でしたら、まずは漬物からやめてみることをおすすめします」(津川医師)
今も通用する健康のヒントがちりばめられた同書から、改めて近藤博士の先見性に気づかされる。
(女性セブン2018年8月23・30日号)
(元記事リンク)
https://www.news-postseven.com/archives/20180809_737620.html
https://www.news-postseven.com/archives/20180815_738268.html
https://www.news-postseven.com/archives/20180814_738202.html
https://www.news-postseven.com/archives/20180811_737758.html
https://www.news-postseven.com/archives/20180815_738247.html
👷🏻主食の米もダメ…赤身肉もダメ…魚もダメか…。
🙇🏻♀️タンパク質を摂りすぎるとガンになるそうです〜…。
👨🏻🔬いまのイワシやサンマは、海を汚染するプラスチックが混ざっているから要注意なようだ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56996