夜も明けきらぬ内に目覚ましのアラームで目を覚ます。

その日の目覚めは快適だった。

風呂屋に行ってサッパリしたので久し振りにぐっすり眠れたのだ。

べたつかない体をシーツに絡ませて、サラサラとした感触を味わいながら夢うつつの時間をしばし楽しんだ後、アフガンの民族衣装シャルワルカミースの袖に腕を通した。


今日は、ここカブールからオアシス都市と呼ばれる(要塞都市とも呼ばれる)ガズニへ移動する日だ。

カブールから南西へ約100キロの場所に位置するガズニへは4~5時間で移動できるらしいので、朝の数時間をカブール観光と写真撮影に使うことにした。


僕の予定では特に問題が無ければ、カンダハル、へラートを目指して西に進み、もうカブールに戻るつもりは無いからである。

友人のアレン君の一件 もあり大胆な撮影はするつもりはないが、やはり記念として写真を撮りたかったのだ。写真撮影に馴染む前の、ありのままのカブールを。


「タクシーでカブール市内を二時間ほど観光したい。できれば車中から写真撮影もしたいので引き受けてくれるドライバ-を探して貰えないだろうか?」


もう、すっかりと心を許していたホテルのオーナーにタクシーの手配を頼むと、彼は快く引き受けてくれた。

僕の目の前で2,3の電話をかけ、その内の一本の電話で話し込むと、僕に金額を確認した後で受話器を置いた。


「パキスタンルピーで100ルピー払えるか?」


どうやらドライバーの要求らしかった。

当時のアフガニスタンの通貨アフガニーはインフレが続いており、国際競争力も低かったので、少しでも安定しているパキスタンルピ-が欲しかったのだろう。

またおぼろげに感じていた事だが、この一件で、パキスタンルピ-がアフガンの中で普通に流通していることに確信が持てた。

僕はその要求を快諾した後、タクシーの到着を待つ間に、これからはアフガニーでダメならパキルピ-で交渉してみよう、と頭の片隅に刻んでおいた。