『哀れな王国の終焉』
そのクリニッ クは、外から見れば洗練された、地域でも評判の美しい医療機関だった。しかし、一歩足を踏み入れ、その中枢に近づくと、そこは一人の絶対君主が支配する、ひどく歪んだ「おままごと王国」だった。
リーダー看護師である「私」は、その歪みのなかで、スタッフたちが少しでも安心して働けるよう、常に心を砕いていた。私の背中を見て、ベテランも若手も、事務員たちもついてきてくれた。それが私の誇りだった。
崩壊の足音は、3月の頭、あまりにもくだらない一言から響き始めた。
院長の「寵姫(お気に入り)」として調子に乗っていた若手ナースが、午後有給を取って帰ろうとするベテランナースの背中に、すれ違いざまに言い放ったのだ。
「たいした仕事もしてないくせに!」
ベテランナースの心に、静かな灯がともった。彼女は怒り狂うわけでもなく、ただ淡々と、その無礼な若手から距離を置いた。大人の対応だった。