ぼく、ロンです。



江國香織さんの小説『左岸』に
描かれた場所を巡るため
博多へ出かけたぼくのママ。





『左岸 上・下』
著者:江國香織
出版社:集英社文庫
2012年2月25日 第1刷



今回は特別バージョンにて
ぼく、ロンに代わり

ママがブログを書きます。


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『左岸』と対をなす
辻仁成氏著『右岸』(青い表紙です)の後書きにて

「辻さんへの手紙」と題した手紙の中に


「隣同士の家に生れた、だめだめな男女の人生の物語を書こう、と話した日のことをよく憶えています。」


との江國先生の言葉があります。



『左岸』は
だめだめな女(茉莉)の半生の物語です。



以下、『左岸』ファンにはたまらない内容となっています、と書きたいところなのですが


いえ
いたって「個人的な嗜好」によるもの
となっています。




【1日目】

① 筥崎宮

たとえば


『筥崎宮の参道は、ひたすら長くまっすぐで、あいだに道路をはさんでさらに長くまっすぐ続いている。振りかえればその先の海まで、視界を遮るものはなく、圧倒されそうな空の分量だ。』

『左岸』上 P. 247


なんて書かれたら
どうしてもその景色が見たくなるじゃないか。


博多駅から地下鉄空港線、箱崎線を使って
まずは、筥崎宮へ。




右下の写真
その先に海が見えました。



② ベイサイドプレイス

筥崎宮からタクシーで、ベイサイドプレイスへ。

ベイサイドプレイスは、海の玄関口。





「そういえば、二、三日前にさきちゃんば見たよ
ベイサイドプレイスで。」

「ベイサイドプレイス?なんであげんとこに?」


朝食の席で、茉莉はさきに問い質した。そんな場所で、一人で、一体何をしていたのか。

「べつに」
というのがさきのこたえだった。

「ただ船を見てたの」


「五島からの船だと九時間も航海してたことになるんだよ。知ってた?それ」

「そんな場所にひとりでいちゃ危ないでしょう?どこかに連れ去られでもしたらどうするの?」

茉莉が咎めたのと、

「知らなかったな。でも五島は遠いからな。かかるだろうな、そのくらい」と、

新がこたえたのと同時だった。

『左岸』下 P. 263-266



さきはこのとき14歳の茉莉の娘。
新は茉莉の父。

ちなみに私はこの小説に出てくる男性の中で
新がいちばん好きです。

そして14歳のさきちゃんに
14歳の私、似ていたと思う。



③ 柳橋連合市場

ベイサイドプレイスからバスで博多駅へ。

そこから住吉通りをひたすら歩く。
那珂川にかかる柳橋のたもとに
柳橋連合市場があるはず。



「柳橋連合市場は、よく喜代と来るので勝手のわかった場所だった。香ばしい匂いをたてて茶葉を煎っているお茶屋や、新鮮な青物が山のように積まれている八百屋、おどろくべき豊かさで、見飽きない魚屋。」

『左岸』上 P. 27




自転車に乗った男性と
指を指している男性のやりとり
かっこよかった。


【2日目】

『左岸』を巡る旅2日目は、「奇跡」から始まるのです。


④ かろのうろん

「かろのうろんに行きたいな。あのお店、まだちゃんとあるよね」

『左岸』下 P. 419

上記は、パリ留学から帰国する、さきの言葉。



「かろのうろん」は、中洲川端にある明治15年から続く老舗のうどん屋さん。

こちらのうどん屋さんは
江國先生のエッセイにて


「かろのうろん」という不思議な名前の小さな店で、ここのうどんはいつたべても、何度たべても、見事に完璧な風味と味なのだった。ひっそりしていて自然な、クリーンな味。

『やわらかなレタス』 P.166
文春文庫


「福岡に着く時間はそのときどきでまちまちだが、何時に着こうと私はまず、かろのうろんという店に行く。」

『旅ドロップ』 P.49
小学館文庫


とも、紹介されている。

ちなみに火曜日が定休日。

中洲川端駅から方向を間違え
少し迷いながら到着。




ここで、奇跡がおこりました。


お店の前のガードレールに腰掛け
待ち合わせをしていたらしいふたりに
遅れてきたひとりが到着し
女性が言う「よし、行こう。」

そのお三方に続いて、私もお店に入る。

と、そのときに気がつきました。

その女性、江國香織先生ご本人だったんです。

(夢でも嘘でもありません)


お店の方に中継ぎをお願い致しまして、私の持参していた本にサインをいただいたうえ、江國先生ご本人が私の座っていた席まで来てくださり、お話してくださいました。


胸がいっぱいになり

ごぼう天うどんの金色に光り輝くお出汁と、柔らかにウェーブした麺の肝心な味が、いまいち思い出せない。
(店内は撮影禁止です)



⑤ 警固

お店を出て、深く一礼。

胸が高鳴ったまま、那珂川沿いを歩き
春吉橋を渡り、警固神社へ。

そこから国体道路を、茉莉が自分のワインバーを持った警固の交差点まで歩く。


「開店前夜、テラスに通じる扉窓をあけ放ち、茉莉は大きく息を吸い込む。警固の街の夜の空気を。」

『左岸』下 P. 284





⑥ 高宮

西鉄福岡(天神)駅に徒歩で戻り
そこから西鉄天神大牟田線に乗り、高宮へ。


西鉄天神大牟田線、右上の写真の通り
ブリキのおもちゃみたいな可愛い電車だった。


「福岡市南区高宮。茉莉はこの街で生れ、この街で育った。」

『左岸』上 P. 9


駅から高宮浄水場の頭が見えたので
その方向へ、急坂をひたすら登る。





「昔、よう段ボール滑りばしたね」
浄水場に続く坂道をのぼりながら、茉莉は言ってみる。略
「あの土手に行ってみらん?」

『左岸』上 P. 257




もしこの物語が
だめだめな女の半生の物語だとしても

私が好きなのは

茉莉がその半生を「超然と生きた」からだと思う。


「ばかにつける薬はないんだから、茉莉は超然としていればいいんだ」
チョウゼンとする、は、その時に聞いた片仮名の響きのまま、それ以来ずっと茉莉の指針になっている。

『左岸』上 P. 19




「神様に祝福された」旅となりました。



(高宮の上水公園にて)



うふふ

「ぼく、ロンです。」

って書いていただいちゃった。