宗教画①~旧約聖書から「創世記」 | romyu通信

宗教画①~旧約聖書から「創世記」

美術館で絵を見る際に、避けて通れないのが宗教画。

聖書が身近な存在でない人にとっては、難解というか近寄りがたいジャンルになりがちではないでしょうか。


実際のメンタル面で、

神の存在を信じたり、キリスト教に心の拠り所を求めるかどうかは、別として

絵に描かれている主題や主なエピソード、繰り返し登場する人物などを

「知識」として知ることは、とっても興味深いことです。


先生曰く、

絵になっている話や人物は、意外と限られていて、

一つの「物語」として聖書をとらえると、とっつきやすいはず、とのこと。



そもそも聖書とは、

ユダヤ教の聖典である「旧約」編と

キリストの生涯を描いた「新約」編の二部構成になっています。

絵画になっているのは圧倒的に、「新約聖書」のキリストの物語が多いようです。


旧約聖書、新約聖書の「約」の字は

「訳」ではなく、神と人間の間の「約束事」であるので「約」となっています。


ユダヤ教は「旧約」とタルムードと呼ばれる律法書を拠り所としているのに対し、

キリスト教は「旧約」と「新約」、

イスラム教は「旧約」と「コーラン」で、

全く違う宗教に見えて、とても近い者同士であることが分かります。


キリスト教が勝手に「旧約」と呼んでいますが、

実際は紀元前12世紀から紀元2世紀ごろまでのイスラエル民族の壮大な記録です。

神が世界を作った「天地創造」の創世記に始まる、イスラエル民族の歴史の書であり、

掟の書であり、すべての源となる文学の書でもあります。



まずは、

ミケランジェロがバチカンのシスティナ礼拝堂の天井画にも描いた「天地創造」。


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神が「光と闇」を作り、「天」と「地」と「海」を分け、「太陽と月と星」を創り、

「魚や獣」を創ります。

そして、土の塵から人類最初の人間、アダムという男を創ります。

アダムというのは、ヘブライ語で土の意味の「アダマ」から生まれたという意味だそうです。

欧米のお葬式で「dust to dust, ashes to ashes」というのは

まさにこの「土に帰る」ということから来ているのですね。


そして

アダムの肋骨から人類最初の女性、イブが創られます。

イブ=エバ=命という意。すべての命あるものの母となります。


楽園で平和に楽しく暮らしていたアダムとイブは、

蛇に誘惑されて神に禁止されていたリンゴを食べてしまい、楽園を追放されてしまいます。

神は罰として、アダムに生涯食べるために働く義務を与え、

イブには産みの苦しみが与えられ、「永遠」の命ではなくなったというお話。



この楽園追放のエピソードは

「Temptation(誘惑)」や「Adam & Eve」や「Expulsion(追放)」などとして多く描かれています。


蛇にリンゴを食べるように最初に誘惑されるのは、女性のイブ。

イブは蛇の誘惑に負けた後に、隣のアダムを誘惑して、一緒にリンゴを食べさせます。

つまり、イブがアダムを誘惑したという構図。

その上、誘惑する蛇はすべて女性の顔をしているし、アダムは、大抵怯えた顔をしています。。。。

悪いのは女性なんですね~。


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こちらは、ティントレットの「Adam & Eve」。

アダムはあからさまに嫌がってのけぞっています・・・。


ユダヤ教もイスラム教も、

男尊女卑というか、男性優位主義な部分が多いのはこの辺から来ているようです。


実際のところ、どちらが誘惑したとしても、2人とも食べたことには変わりはないですから

同罪だと思いますけどね。


マサッチオのこの絵も有名ですね。「The Fall of Man」。
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楽園を追放されて悲しみにくれるアダムとイブが描かれています。



続いてアダムとイブの子供であるCain & Abelのエピソード。

おとなしく農耕を好む兄のカインと暴れん坊で狩猟を好む弟のアベルが

神様に捧げものをすることになり、それぞれ兄は農作物を、弟は獣を捧げます。

神が獣を受け取ったことから、兄がジェラシーで弟を殺してしまうという人類最初の殺人のお話。


このエピソードに関して、このウィリアム・ブレイクの絵は目にしたことがある方の多いのでは?
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私もエピソードは今回初めて知りましたが、絵自体は、見たことがありました。

弟を殺してしまい「なんてことをしてしまったんだ~」と罪の意識にさいなまれる兄と

死んでしまった子供に大げさに覆いかぶさって悲しみにくれる両親。



続いてノアの方舟のエピソード。

ノアはアダムとイブから数えて10代目に当たるそうですが、

この時までに人間世界は退廃し始め、それに怒った神が、世界を一度やり直すことにします。

真面目であったノアの一族と、命ある生物をつがいで方舟にのせ

(=それ以外はすべて一度死んでもらう)、

40日間雨をふらし、150日後に水が引き始め、1年後に大地が再び現れるというお話。


つまり、神の教えに背くと大変なことが起きるという戒めのお話ということでしょうか。



もう一つのエピソードは映画にもなった「Tower of Babel」バベルの塔のエピソード。

天にいる神に近づきたいという人間の欲望から、塔が高く高く造られていきますが

自分に近づきたいなどという人間の傲慢さに激怒した神が、

工事が進まなくなるように、人々がコミュニケーションをとる言葉を変えて混乱をおこし、

その結果、工事は進まなくなり、人間が神に近づくことは出来なくなったというお話。

今でも「絶対に不可能」または「「達成不可能」という意味で使われています。


そもそもBabelというのはヘブライ語で「混乱」の意だそうです。


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宮崎駿の絵並みに、細部まで緻密に描かれたこの絵はPeter Brughel the Elderの作品。

素晴らしい描写だけでなく、ブリューゲルが本領発揮していると言われる理由が

画面手前の石切り場に王らしき人物が描かれている点だそうです。


王らしき人物はいわゆる「権力をもつ者」ですが、

この世界では神以下の人間はすべて同じであるはずで、

「王=えらい」というのはナンセンスだという、権力を持つ者への批判・皮肉が込められているとか。

このバベルの塔の絵に敢えて描かれていることで

権力をもつものが神の存在のようになることは「絶対に不可能」だというメッセージのようですね。

な~るほど。



次週は、イスラエル建国の父といわれるアブラハムのお話。

ユダヤ民族の物語が始まります。