呼び出しボタン【ロミ子の百物語 7夜目】

仄かに春たる夕暮れに、背筋が凍りし怪談を、ロミ子がそっと話します。
１００物語の第７話目、信じる信じぬあなた次第。
１００話が終りしその晩は、物の怪、魍魎現れます。読むか読まぬかご判断、ご自身決断願います。

そんな、７夜目のお話は・・・

賢明な読者諸君であればご存知だろうが、わたしは名古屋に住んでいる。いわゆるメゾネットタイプの集合住宅で２ＬＤＫ。家賃は１０万円程度。ここでわたしは仕事や食事その他の生活を行っている。都会の片隅にある、なんの変哲もない小さい家。庶民的な愛する我が家だ。


田舎にも家を持っている。アウトドアや海が好きなわたしが、２００万円で購入した伊豆の陸の孤島みたいな土地の一軒家だ。３年前に購入してアレコレいじりまくり、自分好みにカスタマイズしている。ハンドメイド好きが高じたが故に『家』という大きなおもちゃで遊び始めた。これも賢明なる読者諸氏はご存知のはずだ。


私は『自由』を好み、『束縛』を嫌う。

しかし、そんな私が、なんらかの『力』により、束縛されたとしたらどうだろう。

***

都会の家と田舎の家の２重生活ではいろいろ差異がある。この生活を始めて知ったのだが、名古屋の近代的な家は気密性が高いから夏でも冬でも過ごしやすい。かたや田舎のボロ家では冬になると隙間風が吹きすさみ、暖房費がかさむのだ。あくまでサマーハウスなので、それはいいのだが、名古屋の家に最近ちょっとした異変がある。

それを書いて行こうと思う。

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近代的な家はお風呂も近代的で、なんかパネルがあって、『お湯はり』とか『追い焚き』とか『温度設定』とか、よくわからないデジタルパネルがある。


わたしはお風呂がすきなので、毎日湯船にお湯をため、一日の疲れを癒している。入浴剤いれたりなんかアロマの香り？みたいな入浴剤あるじゃん。そういうのでお風呂に入っている。

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先週、お風呂のパネルに『呼び出し』というボタンがあることに気付いた。

お風呂に家族を呼び出すらしい。呼び出しボタンを押すとリビングに『お風呂で呼んでいます！』『お風呂で呼んでいます！』みたいなアナウンス。お子さんがいるご家庭では便利だろう。子供の入浴をすませ、呼び出しボタンを押せば、いそいそとパートナーが子供の世話をするためにやってくる。

なんか面白かったので、ひとり暮らしの私も押してみた。

ぴろり～ん♪『お風呂で呼んでいます！』

ぴろり～ん♪『お風呂で呼んでいます！』

ぴろり～ん♪『お風呂で呼んでいます！』

あはは。誰もいないのに。『お風呂で呼んでいます！』。

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湯船に肩までつかる。いや、肩までっていうより、唇の下まで。呼吸できるギリギリの範囲でお湯に入る。温かい。いい気持ち。

もう一回ボタンを押す。

ぴろり～ん♪『お風呂で呼んでいます！』

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あはっ、と一人で笑い、湯船からあがろうとする。

風呂場の擦りガラスの向こうを見ると、誰かがいる。

わたしは１人暮らしだ。誰かがこの家にいるハズがない。

『お風呂で呼んでいます』

『お風呂で呼んでいます』

ぴろり～ん♪『お風呂で呼んでいます』

押してもいない、風呂場のパネルが音を立てる。

呼吸を抑え曇りガラスに目を凝らす。小柄な、花柄のワンピースを着た女性？が、擦りガラスの向こうに立っている。

***

わたしは、意を決して風呂場から出る。当たり前だが脱衣所には誰もいない。え！？え！？なに？変態がわたしの家に侵入した！？ワンピースの少女が？風呂場に？？？

濡れた髪のまま、バスタオルで体を拭き、パジャマのスエットを大急ぎで着る。やばい。この家から出ないと・・・！

***

気を落ち着かせるために、近所のコンビニいってファッション誌を立ち読みする。１時間くらいしてから、安いワインを買って店を出る。

家までトコトコあるく。

家の窓が見える。電気つけっぱなしのままの、２階の作業場を見てほっとする。あれは気のせいだ。私の家には誰もいない。

***

コンビニからの帰り道。見上げる２階の自宅の窓。

なぜか電気が消える。リビングの電気も、2Ｆ作業場の電気も消える。外から見える我が家が真っ暗になる。

わたしの家に何がいるのだろう？『お風呂で呼んでいます』で何を呼んでしまったのだろうか。

お風呂の呼び出しボタンにはご注意を。

何を呼んでしまうかわからないから。

ぴろり～ん♪『お風呂で呼んでいます』

ロミ子の百物語 １夜目 ： 知れど、呼べぬ名
ロミ子の百物語 ２夜目 ： 友に、似た者
ロミ子の百物語 ３夜目 ： 拾ったUSBメモリ
ロミ子の百物語 ４夜目 ： とある、バイト

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