拾ったUSBメモリ 【ロミ子の百物語 3夜目】 | 天然石ジュエリーのCanecryのブログ

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暑き夏の夕暮れに、背筋が凍りし怪談を、ロミ子がそっと話します。
100物語の第3話目、信じる信じぬあなた次第。
100話が終りしその晩は、物の怪、魍魎現れます。読むか読まぬかご判断、ご自身決断願います。

そんな、3夜目のお話は・・・


タイトル画像

「うーん、どこで拾ったのか思い出せないな・・・」

昨夜遅くに泥酔して帰宅した彼はそう言った。「何軒の店に行ったのかも思い出せない。最初の居酒屋と2軒目のバー、3軒目に今北産業の部長にキャバクラに引っ張られて行ったくらいまでは思い出せるんだけど・・・」。

その週末、下請けの会社の接待で飲みに行った彼は、何軒ものお店を連れ回されたらしい。そしてぐでんぐでんに酔っぱらい、混濁した意識のままなんとか帰宅したのだが、シャワーを浴びることもままならず、そのまま背広姿でソファーで寝てしまった。そして翌朝(と言っても昼近くだが)、着替えようとしわくちゃになった上着を脱ごうとしたところ、胸ポケットからUSBメモリが出てきたのだ。

「なんか随分傷だらけのメモリだね。壊れてんじゃないの?」と、私が言うと、彼は同意し、「まぁ、壊れてるのかもしれないけど、ちょっとPCに繋いでみようか」と、いうことになった。

ノートPCを立ち上げてUSBメモリを差し込む。エクスプローラーに『リムーバブルディスク(E:)』と表示される。どうやら壊れてはいないようだった。彼が言う。「なぁ、これなんかヤバい情報だったらマズイんじゃないの。どっかの会社の内部資料とか・・・」。「大丈夫でしょ。なんかマズイの出てきたら捨てちゃえばいいじゃん。落とした人が悪いんだし」と、私は応じ、『リムーバブルディスク(E:)』をダブルクリックする。

ユウくんの成長記録

エクスプローラにポツンと、ひとつだけフォルダが表示された。

「ああ、なんか誰かの子育ての記録っていうかアルバムみたいだねー」と私は言った。彼は答える。「ユウくんって子のママが作ったアルバムかぁ・・・。エラいモン拾っちゃったなぁ。大事なものだったろうに・・・」。わたしは同意する。「なんとかこのママの所に返せないもんかなー」。そう言って、中身が気になり『ユウくんの成長記録』をクリックした。

ユウくんの成長記録2

どうやらこの、『ユウくんの成長記録』を作った人は、マメな性格だったようで、年月で分類された数年分のフォルダがかなりの数、表示された。「おいこれ、相当大事なもんなんじゃないか?」と、彼は言う。確かにこれだけのデータを数年分に渡って蓄積していくのは相当大変だろう。「これ絶対にこのママに返さなきゃ・・・」と私が言うと彼はうなずいた。

年月で分類されたフォルダの中身は印象的だった出来事をタイトルにしたワードファイルが並んでいる。他人のプライベートを覗き見るのは悪いな、と思いつつも好奇心には勝てず、その1つをクリックした。

フォルダ

ファイルの中には目の大きな可愛い男の子が様々な表情で写った写真があり、その下には『お誕生会のケーキ♪』というようなキャプションが付き、「お友達の〇〇くんと〇〇ちゃんがユウくんの誕生日に来てくれたよ。ケーキおいしいね」と、短い説明文がつく、というパターンで1ファイルあたりに20枚程度の写真が並んでいた。

「かわいい子だねー」。「うん。かわいいな」。と、思わず見入ってしまう。泣いたり笑ったり、様々な表情を見せる『ユウくん』は本当に幸せそうで、このご家族がいかに幸福あったかの記録であるこのUSBメモリは、かけがえのない宝物に思えた。

私は画面に写る『ユウくん』の笑顔を眺めながら言った。「どうしよう・・・交番に届けようか???」。彼は言う「う~~~ん。お巡りさんがこのボロいUSBメモリを見て、『持主を探そう』って気になるかなぁ・・・それよりも自分たちで見つけた方がよくない?」。「でも、どうやって見つけるのよ?」。「例えばさ、今、けっこう昔の写真みてるじゃん。最近の見てみようよ。なんか手がかりがあるかもよ?」。彼はそう言って画面をスクロールさせた。

ユウくんの成長記録4

「このあたりでいいか」。2015年8月のフォルダをクリックする。

「なんだ・・・これ・・・」

私たちは凍り付いた。





***





ユウくん

恐る恐るひとつのファイルをクリックすると、目は血走り、顔には血管が浮き上がり、子供とは思えない形相で撮影者を睨み付ける『ユウくん』の姿があった。どう見ても尋常ではない。病気・・・にも見えない・・・。

あまりの事に10秒ほど画面を凝視したあと、我に返ったように慌ててファイルを閉じて、USBメモリをノートPCから引っこ抜く。なんなんだアレは・・・。子供じゃない・・・というか普通の人間の姿じゃない。

5分程の沈黙のあと、彼が口を開く。

「なぁ・・・」

「このUSBメモリって落としたんじゃなくて・・・捨てたんじゃないのか・・・?」

私は黙って頷いた。

***

その後、私たちはそのUSBメモリを投げるように交番に届けた。

今、そのUSBメモリがどこにあるのかは解らない。




ロミ子の百物語 1夜目 : 知れど、呼べぬ名
ロミ子の百物語 2夜目 : 友に、似た者
ロミ子の百物語 3夜目 : 拾ったUSBメモリ
ロミ子の百物語 4夜目 : 呼び出しボタン