*dinner*
ある夜、とても気の合う男の子とバルセロナを歩いていた。
「さまよっていた」というほうが合っている。要は迷子。
さらに私達は恐ろしく金がなく、
物価の特に高くない当時のスペインでさえ、食うに困っているような状態だった。
彼は残りわずかのお金で母国の恋人に電話をし
私はドーナツを買って彼に半分あげていた。
そういえばスペインという国はドーナツ推奨国かと思えるくらいどこででもドーナツが買える。
あつあつカリカリのチュロスとホットチョコレートの組み合わせはどんな季節でも最高のご馳走。
その夜。
空腹のあまり、あしどりはふらふら。
どうしてか宿につかない。
目印にしていたバルが見つからない。
私達はそのバルでささやかなディナーをとって、帰ろうと思っていたのに。
その日は何故か宿の近所の飲食店が皆閉まっていて、
私達の胃袋は絶望的にカラッポだった。
夜がふけ、犬が泣き、道に迷い、
ただ無言で脚を動かす私達の目に、光が入った。
山の上のメリーゴーランド。
それを見た私達ふたりが考えたことは、まったく同じだった。
不思議でもない。だって私達は「気の合う仲間」だったから。
「今夜のディナーは、あれにしよう」
私達はがぜん元気を取り戻し、
その山を登る階段を探し、
そしてそのごちそうにたどり着いた。
それはチュロスとホットチョコレート以上に甘く
私達を満たした。
からだがくったりと疲れている今日みたいな日は
あのご馳走を、思い出す。
