”あなたは本当の恋を知らない
ブルースの意味を知るまでは
いつか失う恋人を愛するまでは
あなたは本当の恋を知らない”

私がビリー・ホリデイの唄を聴くとき、いつも脳裏を過ぎるのが、
"You don't know what love is"のこの一節。

ビリー・ホリデイを語るとき ”奇妙な果実”を持ち出すのは好きではない。
とはいっても、ビリー・ホリデイのレコードで最初に買ったのは、やはり
そのコモドア盤だった。
がしかし、あのレコードで一番好きだったのは "I cover the waterfront"
巨泉氏が涙したといわれる"I'll be seeing you"以上に。

その"I cover the waterfront"ではじまる、このストーリーヴィルでの実況盤。
このレコードは70年代半ばに、発掘盤のカタチでリリースされたもので、
ストーリーヴィルからはオリジナル・リリースされていなかったものだ。
それまでにも色んなカタチで一部は陽の目をみることもあったものに、51年10月と53年10月の録音を抱き合わせた格好で編集されたもの。
手持ちはその昔キング・レコードからリリースされたもので、今でもそれを所有している。
オリジナルはストーリーヴィルではないのだが、センターレーベルはストーリーヴィルのあのデザインになっている。

A面の53年分7曲は、いずれも録音状態は比較的良い。
ただ、彼女の喉の状態は、かなり荒れている。
コモドア盤の張りのある声との比較は酷というものだろう。
だがしかし、聴いていて決して嫌になるということはない。
それは冒頭でも述べた、彼女の歌を聴くときあの歌詞の一節が
いつもアタマを過ぎるゆえ、より唄に説得力が増す。

B面には51年10月録音分が収録されているが、こちらは残念ながら
少し録音状態は落ちる。6曲中後半3曲ではスタン・ゲッツのテナーも
聴けるが、正直ゲッツは取り立ててどうということもない。
この頃絶好調だったゲッツ、ルースト盤のストーリーヴィルでの快演を
期待するとハズされる。
プレス・チルドレンのゲッツではあるが、ジミー・レイニーを含むあのリズム隊
との違いはあれど、やはり彼はモダニスト。
当たり前のハナシだが、彼はレスター・ヤングではなかったということだ。

あと、余談だが・・・この盤、SJ選定だったのをすっかり忘れていた。