これは、最初は確かラジオで聴いてだかなんだかで気に入って買ったんだったと思う。
ジョニ・ミッチェルのアルバムでオンタイムで最初に買ったのが、
この「Court and Spark」

あの頃は、ラジオ位しか情報源がなかった。
音楽誌などもあるにはあったが、圧倒的にラジオからの情報入手の方が多か
ったような。女性シンガーの歌でパッションを感じたのは、ジョニが最初の人だった
ような気がする。ジョニと云えば、あの変則チューニングのアコギだが、
私のジョニのファーストコンタクトはピアノ。なんといってもアルバム冒頭の
表題曲"Court and Spark"でのピアノの凜としたパッションがたまらない。
ローラ・ニーロには(特に60年代のローラ)水面下では意外にドロドロしたもの
も感じるが、ジョニには透明感の方を強く感じる。

初期のジョニのアルバムというと弾き語りが基本だったが、このアルバムからは
劇的にサウンド・プロダクションのヴァリエーションが広がっている。
ジョン・ゲラン等のオーガナイズも少なくないだろうが、ジャズ的要素の導入は、
このアルバムから顕著になりはじめる。
ジャズの持つフリー・インプロヴァイズを持ち込むことにより、より自由に歌えるよう
になったと、ジョニ自身も後年に語っていた。
ジャズとひとくちに言っても、このアルバムが出た70年代中期にベタベタの4ビート・
ジャズなわけもないが、70年代中期以降の定型化してしまったフュージョン・ジャズ
でもなく、理想的な形でクロスオーバーさせているように感じる。
ジャズ曲を直接的に取り上げたのも、このアルバムが最初ではなかっただろうか。
"Twisted"は、元々は私のフェイバリット・テナー奏者のひとりでもあるワーデル・グレイ
のオリジナルだが、ジョニのヴァージョンは、ジョン・ヘンドリックスが詞を付けて
ヴォーカリーズで聞かせた、ランバート、ヘンドリックス&ロスのヴァージョンをお手本
にしたもの。極初期のジョニからは飛躍的に世界が広がっている。
また、それ以外にも丹念に練り込まれたオーケストレーション等は、一際印象深い。
特に、このアルバムのベスト・トラックともいえる "Down to You" でのそれは筆舌に
尽くし難たい。オーケストレーションと云えば、この後「ドンファンのじゃじゃ馬娘」での
"Paprika Plains"、近年でのフルオケをバックにスタンダード及びジョニの旧作を
リアレンジして聴かせてくれてもいた。この時代ならではものでは、"Help Me"辺り
でのジョニのフェミニンさも捨て難い。まだひ弱さを残す、この頃のジョニも好きなところだ。

この後、益々したたかさを増していくことになるジョニの最初のターニング・ポイントとなった、
この「COURT AND SPARK」だが、私的にはこのアルバムでジョニのファンになった、
思い入れ深い大切な一枚。