ダグ・ワトキンスの野心 | ひとつ言い忘れたこと

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聴いてきたレコードあれこれ

 

 
ハード・バッパーとして、ポール・チェンバースのリーダーに対抗させるなら、
トランジション盤のリーダーを選ぶ方が妥当だろうとはおもうが、今日はこちらの方を選択。

残念ながらワトキンスは、ベースではなく全編セロを弾いてる。
ベース弾きのセロといえば、オスカー・ペティフォード、サム・ジョーンズ、
ロン・カーター・・・辺りが浮かぶ。
このセッションの吹き込みは1960年。そろそろハードバップも終焉を迎えた頃。
次なるものへ果敢に挑戦したとも考えられるし、または、そうではなく単に
室内楽的なものもやってみたかったとワトキンスが思ったとも考えられる。
このセッションのキーパーソンは、ユセフ・ラティーフだろう。
テナーは置いて、フルート、オーボエをプレイ。ここら辺りのハズしたセンスは、
ラティーフらしいなと。だが、プレイそのものは頭でっかちの観念的なものではなく
グルーヴも持っている。ワトキンスの代わりにベースを弾くのはハーマン・ライト。
ラティーフ、それからドロシー・アシュビー等との共演歴からも、この人選の意図が見えてくる。
ワトキンスが初めてセロを手にしたのは、このセッションに入る3日前(本当かよ?)
ベースでのピッチの正確さで定評のあるワトキンス、セロを弾かせても
安定感を感じさせる。似た楽器ではあるが、実際弾くとなるとかなり違いのある楽器なので、
ロン・カーター曰く相当練習しないといけないそうだ。
にも関わらずワトキンスの手捌きは見事としか言いようがない。

従弟のポール・チェンバースは同じベーシストでも個性がかなり違う。
チェンバースのベースは音の上でもハッキリした個性が出るが、
ワトキンスは比較的オーソドックス。
だが腕前の方ではワトキンスの方が優っているのではないかと個人的には感じる。
ミンガスがアトランティック盤で自らがピアノに
専念する為、ベースをワトキンスに任せたのはミンガスの気まぐれでもなんでもない。
あの煩いミンガスの信用を得るだけの才能を持ち得ていたからに他ならない。
フレキシブルに音楽に対応できるスキルを持っていたワトキンスであるがゆえに、
この作品を作れたのではないだろうか。
仕掛け人ラティーフの存在も大きいが、
ワトキンスの音楽的キャパの大きさを知ることが出来るこのリーダー作。
だが、この2年後には若くしてこの世を去ってしまう。