ひとつ言い忘れたこと

ひとつ言い忘れたこと

官能の音楽に心を奪われ不老の知恵を省みるものはいない

 

イタリアン・プログレ黄金期の1974年に登場した Il Volo のセルフタイトル作は、当時のシーンを象徴する“スーパーグループ”らしい充実感に満ちた一枚だ。 メンバーには Alberto RadiusGabriele Lorenzi(Formula Tre)、Mario Lavezzi(Flora Fauna Cemento / Camaleonti)、Gianni Dall’Aglio(I Ribelli)、そして作編曲家として名高い Vince Tempera らが参加し、当時のイタリア・ロック界の実力者が結集している。

アルバムの魅力は、ツイン・ギター+ツイン・キーボードという贅沢な編成が生み出す、厚みのあるシンフォニック・サウンド。 エレクトリック・ピアノの煌めき、Eminent系ストリングスの柔らかな広がり、アコースティックとエレクトリックが交錯するギターのニュアンスが、どの曲にも豊かな色彩を与えている。

冒頭の「Come Una Zanzara」は、跳ねるエレピとタイトなリズムが一気に世界観へ引き込む名オープナー。 続く「Il Calore Umano」から「Il Canto Della Preistoria」への流れは、ファンの間でも“イタリアン・プログレ屈指の10分”と語られるほどで、叙情とダイナミズムが見事に融合している 。

全体を通して、ジャズ・ロック的な軽やかさと、シンフォニック・ロックの壮麗さが自然に同居しており、同時期の Formula Tre や Banco、PFM といったバンドとも響き合う質感を持ちながら、Il Volo ならではの温度感と歌心がしっかり刻まれている。

1970年代イタリアン・プログレの深みを味わいたいリスナーにとって、本作は“外せない一枚”というより、“聴けば必ず印象に残る一枚”。 派手さよりもアンサンブルの美しさで勝負する、まさに職人たちの結晶といえるアルバムだ。

 メンバーの来歴から読み解く“イタリアン・プログレの職人集団”の結晶

1974年に登場した Il Volo は、単なる新バンドではなく、当時のイタリア・ロック界の精鋭が集結した“職人集団”だった。 その背景を知ると、このアルバムの音がなぜここまで豊かで、完成度が高いのかが一気に腑に落ちる。

Alberto Radius(Formula Tre)

エレクトリック/アコースティックギター、エレクトリック・シタール、ヴォーカル Formula Tre の中心人物として知られる Radius は、70年代イタリアン・ロックの中でも特に“音色のセンス”に優れたギタリスト。 Il Volo では、歪ませすぎないクリーン寄りのトーンで、エレピやストリングスと溶け合うギターの美学を提示する。 彼の存在が、アルバム全体の“都会的な洗練”を決定づけている。

Mario Lavezzi(Flora Fauna Cemento / Camaleonti)

アコギ、12弦ギター、エレキ、マンドリン、ヴォーカル ポップスからロックまで幅広く活動してきた Lavezzi は、Il Volo に“歌心”と“メロディの柔らかさ”を持ち込んだ。 特にアコースティックのニュアンスは絶妙で、 「La Mia Rivoluzione」「I Primi Respiri」などの叙情性の核になっている。

Gabriele Lorenzi(Formula Tre)

オルガン、ハープシコード、シンセサイザー Radius と同じく Formula Tre 出身。 彼のキーボードは、クラシカルな構築力とロックの推進力を併せ持ち、 「Il Calore Umano」〜「Il Canto Della Preistoria」のシンフォニックな高揚感を支えている。 Eminent 系ストリングスの扱いも巧みで、Il Volo の“空間の広がり”は彼の仕事が大きい。

Vince Tempera(Pleasure Machine / 作編曲家)

グランドピアノ、エレピ、クラビネット 映画音楽やテレビ音楽でも活躍した作編曲家。 Il Volo では、エレピの煌めきやクラビネットのファンキーな歯切れなど、音色の選択が抜群。 ジャズロック的な軽やかさと、シンフォニックな厚みを自然に共存させる“音の設計者”として機能している。

Gianni Dall’Aglio(I Ribelli)

ドラム、ヴォーカル Adriano Celentano のバックを務めた I Ribelli のドラマー。 彼のドラミングは、派手さよりも“曲を前に進める推進力”が特徴で、 「Come Una Zanzara」や「La Canzone Del Nostro Tempo」のグルーヴを決定づけている。 ロックとジャズの中間を行く、しなやかなドラミングが Il Volo の土台だ。

Olov(=Bob Callero / Osage Tribe, Duello Madre)

ベース クレジットでは “Olov” 名義だが、実際は Osage Tribe〜Duello Madre の Bob Callero。 ジャズロック寄りのプレイが得意で、 エレピ主体のアンサンブルに深い低音の“うねり”を与える。 Il Volo の音が軽くならず、しっかりとした重量感を保っているのは彼の貢献が大きい。

なぜこのメンバー構成が特別なのか

Il Volo は、単に有名ミュージシャンが集まっただけではない。 それぞれが “異なるジャンルの強み” を持ち寄ったことで、次のような独自性が生まれた。

  • Formula Tre 由来の ロック+クラシカルの構築力

  • Lavezzi の ポップス的メロディセンス

  • Callero の ジャズロック的ベースライン

  • Tempera の 音色設計とアレンジの巧みさ

  • Dall’Aglio の しなやかなグルーヴ

これらが混ざり合うことで、 “シンフォニックなのに軽やか、ジャズロックなのに歌心がある” という、他にない音楽が生まれた。


1. Come Una Zanzara(4:56)

アルバムの世界観を一気に提示する、跳ねるエレピとタイトなリズムが印象的なオープナー。 Radius と Lavezzi のギターは、歪ませすぎずに“切れ味”を重視したタッチで、Eminent 系ストリングスの柔らかな広がりと美しく絡む。 メロディは軽快だが、リズム隊の推進力が強く、ジャズロック的な浮遊感とロックの直進性が同居しているのがポイント。

2. La Mia Rivoluzione(3:05)

短尺ながら、Il Volo の“歌心”が最もストレートに出た曲。 アコギのストロークとエレピのコードワークが温かく、ヴォーカルのハーモニーが柔らかく立ち上がる。 派手な展開はないが、メロディの美しさで聴かせるタイプの佳曲

3. Il Calore Umano(4:30)

ここからアルバムの核心部へ。 エレピのアルペジオが静かに幕を開け、徐々にシンフォニックな厚みが増していく構成が見事。 中盤のギターとキーボードの掛け合いは、Formula Tre の流れを感じさせる“イタリアらしい叙情と緊張感”のバランスが絶妙。

4. Il Canto Della Preistoria (Molecole)(4:15)

前曲からの流れで聴くと、10分の組曲の後半のように機能する名曲。 Eminent ストリングスの広がりと、シンセの“分子が漂うような”音色がタイトルのイメージをそのまま音にしたような質感。 リズムは緩やかだが、ギターの細かなフレーズが空間を切り裂き、静と動のコントラストが非常に美しい。

5. I Primi Respiri(3:43)

タイトル通り“最初の呼吸”のように、柔らかく立ち上がる曲。 アコースティックギターのニュアンスが繊細で、ピアノのタッチも透明感がある。 アルバムの中で最も“室内楽的”な空気を持ち、過剰な装飾を排した純度の高い叙情曲

6. La Canzone Del Nostro Tempo(4:07)

ここで再びバンドアンサンブルが前面に出る。 クラビネットの歯切れの良さと、ギターのカッティングがファンキーに絡み、ジャズロック寄りの軽快さを生む。 ヴォーカルのメロディは意外とポップで、アルバムの中で最も“開けた”雰囲気を持つ。

7. Sonno(3:58)

タイトルは“眠り”だが、音像はむしろ夢の中のように不安定で幻想的。 シンセの揺らぎと、エレピの淡いコードが浮遊感を作り、ギターは最小限の音数で空間を彩る。 Il Volo のアンビエント的側面が最もよく出た曲。

8. Sinfonia Delle Scarpe Da Tennis(2:49)

アルバムの締めとしては意外なほど軽やかで、遊び心に満ちた小品。 短いながら、キーボードのフレーズ構築が巧みで、まるで“ミニチュアのシンフォニー”。 緊張感の強い前半との対比で、余韻としての心地よさを残すエンディング。

全体の流れのポイント

  • 1曲目〜4曲目:バンドの核となる“シンフォニック+ジャズロック”の美学が凝縮

  • 5〜6曲目:叙情とポップさのバランスが心地よい中盤

  • 7〜8曲目:夢幻的な空気から軽やかな締めへ

Il Volo の“職人集団としての精度”と“イタリアらしい情緒”が最も自然に溶け合ったアルバムだと改めて感じる構成。

まとめ

Il Volo のデビュー作は、イタリアン・プログレの中でも特に“来歴を知ると深く味わえる”アルバムだ。 メンバーそれぞれのキャリアが音の隅々にまで反映されており、 職人たちが本気で作り上げた、1974年のイタリア音楽の結晶と言っていい。