ちゃんこの味
「全く納得がいかんとです!」
「そうか?充分美味しいと思うがな?」
と言ってチャンコの汁をすすり味見をした。
「やっぱり美味しいよ、お相撲さんの作る、ちゃんこは美味いや。」
「いやー何かが足りんとです。」
「全くチャンコ作りになると妥協ってものを知らないなーそれくらい相撲にも取り組んでいれば今頃関取だろうにな。」(笑)
「それとこれとは関係ないとです!」
「いいよ冗談だよ、ほら!食べるぞ!先生方呼んで来い。」
「わかりもした。」
力士は先生方を食事に誘うべく二階へと向おうとした。
そんな時、玄関の方で訪問者の声がした。
「もし。」
「わしが行きもす。」
「簡単に誰でも入れるなよ。」
「わかってもす。」
力士は玄関の扉の前まで行き用心深く少しだけ扉を開きその訪問者に尋ねた。
「どなたでもすか?」
「才谷先生はおられますか?」
力士は才谷の名を聞いて信用した、なぜなら一部の人間しかこの名前は知らないからだ。
「ええいますよどうぞ、今ちょうど、チャンコができた所です良かったら一緒に食べもそう。」
「かたじけない。」
そういい訪問者は空けてもらった扉から中に入った。
力士が階段の下から大きな声で階上の才谷先生を呼んだ。
「才谷先生ー!お客さんどす!」
と言い終わったとたん、力士は既に絶命していた。
訪問者が後ろから目にも止まらぬ速さで刀を振り下ろしていたのである。
力士の大きな巨体は大きな音を立てて崩れ落ちた。
階上から声が聞こえた。
「はっはっはっ、おーい!階段は静かに上がれよー。」
訪問者達は階段を足早に駆け上がっていった。
チャンコ鍋の匂いが漂っていた。
(完)
「幕末!引きこもり浪人!」(激動編)
頭目らしき男はそう言い放ったあと、隣の旅籠に突入して行った。
続いて他の6人も続々と中に入っていった。
多少隣から騒がしい物音が聞こえた後、地の底からの腹に振動が来るような図太い叫びの様な声が聞こえてきた。
「会津藩御預かり新撰組局長近藤勇である!都での狼藉一切許さん!」
「はぁーっ!」
とたんに刀のかち合う音、気合声、隣の旅籠が殺気だった騒音で充満した。
俺はなんの言葉も発せ無かった、心臓がバクバクしている。
「・・・・・もし?」
「!?」
誰かが俺に話しかけてきた。
それも至近距離でだ、屋根の上でだ。
当然俺は驚いたがそいつの冷静な語り口に俺も冷静になってきた。
「しばしそなたの部屋で休憩させて貰えないだろうか?お礼は後で充分する。」
おそらく急襲された方の侍が隣の旅館から逃げてきたんだろう。
雲が去り月光がその侍の顔を映す。
「かっ桂どのでは!?」
「・・・・・・・さよう、とにかく部屋へお願いする。」
わかりました。
二人で部屋に入り、俺はこの長州の志士の大物、桂小五郎をこの旅館から脱走させようと下の階に下りようとした。
下からも声が聞こえる。
「女将!長州侍はこの旅館に逃げてこなかったか?」
「いっいえだれも。」
「調べさせて貰う!」
新撰組とやらがずかずかと、この旅館に上がってきた。
俺は屋根裏部屋の入り口をヒモで上げ息を潜めた。
「・・・・・・どうやら居ないようだ。他にいくぞ!」
これでは当分動くわけにもいかず俺は桂に、当分はこの部屋にジッとしていることを薦めた。
「私の顔を知っているようだが君は誰だ?」
「ああ相模の国から志士を夢見て出てきた名も無き一浪人です、以前志士の会合が会った時に拝見させていただきまして桂殿の顔は存じております。」
「おお君も志士か、で今は主にどの組織で活動している?」
「えっっと・・・・・特に活動というかそういうものは今のところは・・・・・・」
俺の以前の想像の中では堂々と桂と対等に話している自分が3年間自分の中に居たが、こうも目の前に実際の大物桂小五郎がいると格負けしてしまう。
しかし今は彼も弱りきっていた。
俺はなぜか、今京都から落ちていくしかないだろうこの長州の大物に、俺の三年間の全てを話す気になった。
桂もいろいろなことを俺に話してくれた。
長州藩が天子様を長州に連れ去る計画があったこと。
そこに会津藩御預かり新撰組とやらが突入してきたこと。
色々聞いた。
「さてっそろそろ私は行かせてもらう、この恩一生忘れない。」
「そうだ今後長州藩は都での活動を制限されるだろう、どうか長州のために働いてはくれないか?」
「どっどのような仕事で?」
「いいか長州侍はおそらくこれから旅籠には泊まれまい、君の部屋に泊まらせて貰うというのはどうだ?」
「それと君は3年間ここに篭りっきりだったそれが幸い今京都の街で君を知るものはだれもいない、どうか長州のために情報を収集してはくれないだろうか?」
「わっわかりました。」
「これは私が確かに頼んだという証だ。」
と言って桂は一枚の証書をその場で書いた。
「では頼んだぞ」
「はっはい。」
血が熱く燃え滾るのが自分でも解った。
今夜俺の中で3年間守り続けてきた想像の中の志士俺は死んだ、が今夜、現実の志士俺が再び始まろうとしている。
現実の志士俺は、以前の想像の中の志士俺よりも小物だが、以前の現実の志士俺よりは重要な役割に成った。
今夜隣の旅籠池田屋の騒動を見た、新撰組側も長州側も俺の様な若いやつらだった、みんな命がけで大声張り上げて、刀で、戦いで必死で自分を主張し合っていた。
俺は見た、新撰組とやらは、たった7人で40人に戦いをいどんだ、やつらが突入する前の躊躇、やつらは震えていた、近藤とやらの決断、俺には感じれた、やつらもきっと誰にも知られてないチッポケナ志士たちなんだって、たった7人で40人を相手に突入でもしなきゃ誰も認めてなんてくれやしない下級の志士たちだったんだって、でもやつらは突入した。
そして勝った。
おそらくやつらの名前は日本中に響き渡るだろう。
3年前俺は、結局戦うこともせず何かに挑戦することもせず、ただ目の前に聳え立つ高い壁に、不可能に見える課題に、ただただ不幸を嘆いていた。
今夜はどうせ寝むれないだろう、血が沸騰するように熱い。
桂からもらった証書を握りしめ、何処に行けばいいのかは解らないが、とにかく出かける準備をした。
明日から行動してもいいのだが、とても明日まで待てなかった、夜は長い今夜だってまだ何かできるさ。
(完)
「幕末!引きこもり浪人!」(序章)
京都の街は騒がしい、しかし俺は昼間だというのに、四条の近くにある旅館の屋根裏部屋で一人いる。
外はおそらく快晴の青空だろう、わずかながら差し込んでくる日光の量でわかる。
「ああ喉が渇いた。」
俺は、この部屋の入り口にあるヒモを引いた。
下の階で鈴の鳴る音がする。
直ぐに、面倒くさそうな女中の声が飛んできた。
「なんだい?こんどは何が欲しいんだい?」
「あ・・・何か飲み物をたのむ。」
「わかったよー、まったく昼間っから若いもんがそんなところで閉じこもって、知ってるかい?屋根裏部屋が一番湿気多いんだよ!降りてきて外に出て外の空気でもすいなよ!長州のお侍さんみてみな!みんな日の本の国のためだって京都中走り回ってるよ。」
「・・・・・・・」
「ほーら水だ、ここにおいて置くよ!」
「かたじけない。」
思えば3年前大志を抱いてここ王城の都、京都にやってきた、正直、俺は直ぐに久坂や桂、武市になれると思ってた、やつらと肩を並べて日の本の国の未来について語る自分しか描いてなかった。
でも実際、来て見れば現実の俺は下級志士達からも相手にされないチッポケな一浪人に過ぎなかった。
次第に人に会うのが面倒になりこの部屋で毎日ごろごろするようになった。
決して外に出るのが嫌なんじゃない。
自分でもなんで部屋に篭るように成ったかは最初は気がつかなかった。
3年の間色々考えた、最近いくつかの事はわかってきた。
なぜ俺が志士の間で相手にされなかったかだ、要は長州や薩摩、土佐の出身じゃないからだ、しかしだ、じゃあ清川八郎はどうだ?やつは奥州庄内藩の出身だそれでもやつの名は日本中を駆け巡った、やはり出身地も言い訳にならないか。
俺は田中や似蔵、中村半兵衛のような剣の腕もない、軍師になるほどの知恵も無い。
実は自分でも解ってる、要は以前ここに来る前に自分自身でで描いていた自分を守り続けたいだけなんだ、もし今外に出てしまうと、今日のような快晴のお天道様の元では、現実のチッポケナ自分が、ただの下級志士以下の自分が、何にも持っていない自分が、残酷なまでに明確にお天道様に照らされてしまう、世間に解らされてしまう、そしてなにより自分で本当の今の自分自身が見えてしまう、それが怖くって仕方ないだけなんだ。
だからこの薄暗い屋根裏部屋で自分自身が見えないように、自分自身をボンヤリトしか確認できないように以前の自分の想像を守る為にこの薄暗い湿ったこの屋根裏部屋にいるだけなんだって、知ってる、自分でも充分知ってる。
だが幸い・・・・・幸いだか不幸にもだかは俺も解らないが、俺の実家は金持ちだ、仕送りというものを俺は受け取っている、だから3年間もこの部屋に居れた、俺の両親は俺が京都で志士として天馬のように駆け抜けている俺がいると信じている。
実際俺も手紙にはそんな自分を演じている。
俺の手紙の中の自分こそ以前俺が想像していた自分なんだ、手紙の中の自分は久坂や桂を呼び捨てにして彼らと対等に政治について論議している。
「3年間か・・・・。」
俺は生ぬるい水を喉に通しながら小さい窓から外を見た。
やはり今日は快晴だ、あいも変わらず京の街の人通りは多い。
隣の旅籠には侍がよく出入りする、良く外を眺めているから知っている。
「しかし今日はいつもより多いな。」
まあどうでもいい事だ、どうも体がだるい、部屋にずっといるとなぜだか知らないが何もしなくっても体がだるい。
だから寝る、昼寝だ蒸し暑いから掛け布団はかけない。
・・・・どれだけ寝たか自分でも解らない、夜になっていた、まあいつものことだ、俺に夜も昼も無い、ただだるくなったら寝るそれだけだ、また外を見た、流石の京の街も夜は静かなものだあちらこちに明かりはあるが人通りはまばらだ、最近は治安がそんなによくない人々も夜の出歩きは控えているのだろう。
「?」
そんななか数人の侍達が駆け足で隣の旅籠の前に集結している。
彼らは妙な格好をしている白と青の段々羽織だ。
「なんだあれ?忠臣蔵か?だせ」と俺は思った。
侍達は、なにかこそこそ話してる。
良く聞こえなかったので、俺はこの小さな窓からやつ等に気が付かれない様に顔をだし注意深く観察した。
侍の数は7人、忠臣蔵みたいな格好、会話の内容もかすかに聞こえてきた。
「40人はいますね・・・・・」
「待ちますか・・・・・」
「少し数が多すぎるのでは・・・・・」
いったい彼らは何をしようとしているのか?
頭目らしき男に他の6人は必死に彼の意見を引き出そうと話しかけている。
その男はじっとその場に立ち言葉を発しない。
俺は本当に彼らに興味が湧いてきた。
気が付かれない様に屋根に出て彼らを観察した。
そんなときその侍達の頭目らしき男が刀を抜いた。
月光に照らされその刀は不気味に光った
「おいおい・・・・なんだやつらは?」
俺は屋根から落ちないようにしがみ付きながらも好奇心の固まりとなり必死に観察した。
その頭目らしき男が言い放った、今度は充分大きな声だ。
「われわれだけで突入する!」
(つづく)