ネクタイの傲慢


 そんなにも悩むなら買わなければいいじゃないか。冷やかしはやめてくれ。買わないのならそこまで触るんじゃない。俺にはもっと適当な運命の人がいるんだ。君のような人はどうせ買ってしまっても粗末に床に脱ぎ散らかすのだろ。俺はそんなに安っぽくない。止めるなら今のうちだぜ。とは言っても俺と同じタイプの仲間はもうみんな売れてしまっていない。俺が最後だ。ここでずっときれいにこうやって飾られていたい気もするが、飽きっぽい俺のことだから。どっちでもいいぜ。ただ、一つだけ条件がある。俺を買っても粗末には扱わないでくれ。もしそんなことがあったら、いつもより首をきつく絞めてやる。それでもいいのか。

 お前がこんなにも辛抱強いとは夢にも思わなかった。それでお前の目的は何なんだ。会議か、それともお前の女と食事することか。まあお前に女がいるとはとても思えないが。ちょっと待ってくれ。これが俺の寝床か。こんな暗くて窮屈なところは久しぶりだ。それに俺を折りたたむのは止してくれ。お前はネクタイハンガーすら持ってないのか。とんだとこに来たもんだ。

 朝なのか。あわただしいな。それにしてもお前の首は太いな。ちゃんとベルトのバックルのところまで俺を垂らしてくれ。おい、先にひげを剃ってから俺をまけよな。お前の毛がくすぐったいが、ところどころで痛い。全く。とんだやつに巻かれたものだ。お前たばこは吸わないよな。よし、それはいい。だからといって俺を煙たいところへ連れて行くんじゃないぞ。飯を食うときは食べ物を俺にこぼすなよ。だからといって俺をズポンの中へもぐりこませるな。前がよく見えない。お前そんなもの食うのか。そんなもの食うから太るんだろ。バランスを考えろよ。皿の上のピクルスを残すんじゃない。母親に習わなかったのか。全く。お前がもっと太って、俺は斜めに垂れなきゃならなくなって、俺が腰を痛めたらどうするんだ。全くちょっとは俺の気持ちにもなってほしもんだ。

 ふう、今日は長かったな。お前こんなにも長い間俺を巻いていないといけないのかい。全く、雑に俺をまくから皺ができてるじゃないか。店にいたときはもうちっとはましな扱いをしてくれたぜ。明日晴れだったら俺を真直ぐ伸ばすように寝かせて日の当たる室内に干してくれ。

                                              担当:よしき