いつものように、朝遅くにこの顔立ちで床から起き上がって、使い古した着物に身を包み、でもこれは別に義務でも何でもない。いつものように、昼前に朝飯を食らい、眩しい陽の光に目を細め、帯に手を入れながら村人をにらみつける。これも義務でも何でもない。いつものように、朝が遅いから昼は酒しか飲まず、酒のあては見慣れた女衆で、どいつも俺の前ではさぞかし俺の女ぶってやがる。こんな義務もあったもんじゃない。今日を生き抜いて明日生きることですら義務でないのだから。いつか突飛な日が必ずやってくるとどこかで確信していた。
村の喧騒から遠く離れた湖の近くを通りかかった時だった。湖の人魚が俺をにらみつけている。俺は目を合わさぬように顔を強張らせながら湖を通り過ぎ、山の麓へ向かおうとせっかちに歩いた。湖が見えなくなるほどの森の深みで俺は考えを変え、もと来た道を戻り始めた。そして湖でじっと俺をにらむ人魚にこう言ってやった。
「お前が俺の義務なのか?どうなんだ。」
人魚は俺の目をにらみつけたまま、首を小さく縦に振った。
「お前はなぜ俺にそんな義務を持たせるんだ?俺の型どおりの人生を哀れに思ったつもりでもいるのか?言っておくが俺はお前が思っているほどいい奴じゃない。俺は何人もの女と暮らしてきては、未だに男に引っ付き回ってる馬鹿げた女衆の”仮面”を壊せずにいる。それに言っておくが、人間の世の中は人魚が思うほど甘くはない。酒を買う金がなくなったらいつでもお前をどこかへ売ってやる。それでもか?」
人魚は水面を揺らすことなくそっと岸に這い上がって、水に映える熟れた夕陽ような目で俺をじっと見ていた。
担当:よしき