「8枚のうち私が3枚いただくことにします。」 子供のころから、私たちの父はよく海外に出かけ、その土産として、パリやらニューヨークなどのポストカードを私たちに買ってきてくれました。兄などは、せっかちなもので外国の包装紙などには目もくれず、中身だけさっさと取り出して満足している有様なのですが、妹の私は丁寧に袋から取り出して本のしおりにしたり、包装紙の花模様を細かくカッターで切り抜いて、ピンにくくりつけて髪飾りにしたりと、いろんな楽しみ方をしていたものです。兄はすっかり歳をとってしまいましたが、私は16のまま。ずっとこのまま。兄は私の歳のとらぬ様を見てなのでしょうか、私に話すことは決まってあの人魚と老女の話なのです。


 "Love is so blind. I'm a poor chick. Army never helps me. " どこで覚えたのだろうか、異国の歌を口ずさみ、湖の畔で午後3時にきまって水浴びをする人魚がいた。人魚は醜い老女と共に暮らしており、老女は人魚のことをたいへんかわいがっていた。老女は、市場で林檎を買ってきては一口で食べられる程度の大きさに切ってみたり、見よう見まねで伊太利亜料理を作って人魚に与えたり、甘い御菓子を買って来てやったりとせいぜい奉仕していた。ところがある日、人魚は16年間という長い時間の中でこの醜い老女以外に知る者がいないということに極度の不安を感じ、このまま誰にも見られずにこの湖で生涯怠惰に遊びのけるのではないかと思い、ぎょっとした。それ故、いつからか人魚はこの老女のことを深く嫌い、機会があれば老女の届かぬどこか遠い所へ逃げ出してやろうと密かに計画をしていた。その機会はすぐにやってきた。老女が日曜日の午後3時、市場に出かけている間に人魚のいる湖の周りをぶらぶら歩いてきた男がいた。この男は大変好色な男ということで村中に知れ渡っていた。人魚にとって生まれて初めて見た男であったので比べる余地もない。人魚は覚悟を決めた。



担当:瀬戸なつみ