エルヴィス・プレスリーがそうであったように、マリリン・モンローもまた私(乙山)にとって記号のような存在だった。アンディ・ウォーホルによる版画のイメージのほうが、スクリーン上のマリリン・モンローのそれより強かったという世代で、昔テレビで見たかもしれないが、ちゃんと見た記憶はなぜか少ない。あまりにも有名すぎる人は、かえって敬遠してしまうものだ。

『お熱いのがお好き』は数年前にテレビ放映したものを見た。大きく開いた胸とベアバックのドレス、ものすごく目立つ色の口紅と白っぽいブロンド、そしてあのホクロとあの歩き方……どういうわけか「少し頭が弱いセクシー女優」というイメージがあったけれど、見ているうちにマリリンって本当は頭が良くてかなり繊細な人なんじゃないか、と思えてくるのだった。

舞台は1929年のシカゴ、禁酒法時代である。サックス奏者のジョー(トニー・カーティス)とベース奏者のジェリー(ジャック・レモン)は、マフィアが抗争する現場を目撃したため、シカゴから逃げる必要があった。音楽の仕事をもらおうと仲介事務所を訪れるがなかなか見つからない。ちょうどサキソフォンとベース奏者を探している、という話があったが、全員女性の楽団だった。

そこで二人は女装し、ジョーはジョセフィンとして、ジェリーはダフネと名乗って女性楽団に潜り込むのに成功した。フロリダへ向かう列車に乗り込むとき、二人は同楽団の歌手でウクレレ奏者のシュガー(マリリン・モンロー)を見て一目惚れしてしまう。列車が出発し、二人がトイレに行くと、シュガーが携帯用金属ボトルでバーボンを飲んでいるんだけど、それを足の内側に隠す場面がたまらない。

列車の中でも楽団は練習をするが、マリリン・モンローが歌うと空気が変わってしまうほどである。決して上手なわけではない低めアルトで、ちょっとかすれたヴォーカルは少し高域に入るとヴィブラートがかかったように震える。素人丸出しのブレスがはっきり聞こえるが、これが何ともセクシーに思えてしまうのが不思議で仕方がない。ちなみに、今はブレスが聞こえるようにするのが「主流」になっている(?)んだろうか。

歌の最後で足を少し上げて決めのポーズをした瞬間、隠していた酒ボトルが床に落ち、見つけた楽団の女主人が「また飲んでるの、シュガー? 禁止のはずだけど」と詰め寄る。それは自分のよ、とダフネが助け舟を出したことでシュガーと親密になっていく。その後、寝台車両で各々寝ようとするのだが、シュガーは助けてもらったダフネにお礼をしようとバーボンのスキットルを持参してダフネのベッドへ行く。

それを見ていた女の子たちは「パーティーが始まった」と勘違いし、それが伝言ゲームのように伝わってダフネのベッドに食べ物やら酒やらを持って集まってくる。だれかがスウィート・ベルモットを持参していたのか、シュガーはマンハッタン(カクテル)を作ろうと言い出し、ミキシング・グラスの代わりに氷嚢を使ってやろうとするのが可愛らしい。「マラスキーノ」(チェリー)とかなんとか言ってますね。

フロリダに着いた一行は、ホテルに宿泊しながら演奏を行う予定だが、演奏は夜のディナー・タイムなので、それまで自由時間になった。さっそく海水浴を、という流れになったが、ジョセフィン(ジョー)は海水浴に行かずに巨大石油会社の御曹司に成りすましてシュガーに近付き、彼女の心をつかむ。一方、ダフネは心あらずも本物の大富豪に気に入られてしまう。

途中まではそんな感じだけど、ジョーがシュガーを落とす駆け引きが巧いですね。ジェリーから大富豪がクルーザーで待っている、という情報を聞いたジョーは、ちゃっかりそれを利用してシュガーと桟橋で待ち合わせ、クルーザーで二人きりに。で、自分は感じることがないんだ、なんて言って思い切り引いて見せるわけです。するとシュガーは私を試してみない? と積極的になるんです。その後のキス場面は見せ場の一つでしょう。

もう一つ言えることは、やはりジャック・レモンとのコンビが良かった、ということだろう。彼とコンビで行動することで、マフィアから逃げ回るドタバタがより面白いものになったのだし、ジャック・レモンがいてこそ最後の名セリフ "Nobody's perfect." が引き出されたのだろう。この後のジャック・レモンの活躍を見ても、いいキャスティングをしたなあと感心してしまう。

女性楽団の演奏場面で、モンローは「I Wanna Be Loved By You」を歌うんだけど、テレビCMでも使われているのでご存知の方も多いと思う。これがまたものすごく印象に残るんですね。マリリン・モンローって本当にすごい女優なんだと改めて思った。オーディオの音源としては見向きもしなかったんだけど、マリリン・モンローのCDが欲しくなってしまった。