今月27.8日に南房総の方へ行って来た。休みが連続でとれたので、台風の被害にあった地域ならば客足は少ないだろうから宿は空いているだろうと同行者が考えたからである。ところが25.6日になり、台風21号の影響でこの地に三度目の大雨が降り注いだ。行く前日になってから、この時期に行ってもいいものかと思うようになった。しかし運良くその二日間は雨は降らなかったので行く事にした。道中ブルーシートで覆われた民家が何軒かあった。台風で吹き飛ばされ、何も咲いてない花壇もあった。一番酷かったのは樹々が至るところで折れていた事である。
  災害ゴミが山のように積み上げられていた場所もあった。震災の被災地も今回の台風で多大なる被害を受けたそうだ。ふと釜石の電光板を残して骨組みだけになったコンビニを思い出した。そして見渡す限りずっと瓦礫の街並の続くバスの車窓も・・・・

  「次は●●、●●。元気な歯は健康の源、◆◆歯科は赤い屋根が目印です。」
  街の宣伝がバス内に虚しく響き渡る。ここら辺一帯は津波で流され、瓦礫の山が延々と続くだけだ。この地域一帯の生活はどうなってしまうのだろうか? 考えずにはいられなかった。辺りは段々と暗くなって来た。
  「次は◾️◾️・・・・」
  バスを乗り継ぎ、漸く宮古に辿り着いた。津波が遡上40.5m(11年時点で東北地方太平洋地震の津波遡上の最高到達高度。以降もっと高い到達があったかもしれないけどちゃんと調べてないので分かりません)まで達したという地だ。ここにまたガイドブックに載っていたライダーハウスがある。素泊まり500円で泊まれるそうだ。あとは1000円以上そこで食事をすれば、店の空いているスペースで寝かせてくれるという。住所のところに行ってみると、何という事か、津波で損傷し、開店してなかった(ブログで最近確認すると、後に復活したそうである)。仕方がないので街をうろつき、漸く素泊まり3500円の民宿を見つけた。2000円高いけど六畳の個室だ。雑魚寝の寝袋よりはかえって良かったかもしれない。中は清潔感に溢れ、釜石の民宿は1000円以上高かったがこちらの方が断然いい。布団に潜り心を落ち着かせる。
  次の日には宮古にある魚菜市場に行って来た。様々な食材があり、その場で焼いて食べれたりする。近くまで津波が来ていたが、二ヶ月強経ったその日はかなりの店が開店していた。
  その後バスに乗り、小本にて乗り継いで龍泉洞へ行く。日本三大鍾乳洞のうち一つで、全長は5kmにも及ぶそうだ(公開されているのは0.7km程)。一口飲むと三年寿命が延びるという長命の泉の水を空いているペットボトルに出来るだけ詰めた。鍾乳洞の鍾乳石は本当に奇妙な形をしている。逆さソフトクリームのような捻りをしている大きな鍾乳石は、こうなるまでに数万年かかったという。地底湖がいくつもあり、まだまだ先には魅力的な場所がありそうだったが、そこから先は残念ながら公開されてはいなかった。
  帰りにバスを待つ時間が勿体無いので、出来る限り歩く事にした。地方の田舎道なので、周りは民家以外何もない。途中なんかお通じが出そうになって来た。10年前の頃のような若造ではないので野糞は気がひける。どうにかならないものか・・・・と思っていたら、漸く花屋を見つけた。借りた離れのトイレにて用を足す。ボットンだった。遠野で出逢ったようなハーフではなく、リアルボットンだ。かなり久しぶりだった。
  歩いているうちにとあるバス停にちょうど良くバスが来るタイミングで訪れられたので、乗って乗り継いで陸中野田までやって来た。もう辺りはかなり暗くなっている。予約のハガキは宿に届いただろうか?
  実はその日の朝、持参したハガキを郵便局に出し、宿に予約を入れてあったのだ。ガイドブックに載っていた電話のない宿で、予約のためには往復ハガキを予め送っておくのだが、旅の途中なので返信ハガキを住所に送られても私はそれを受け取る事ができない。片道ハガキに携帯の電話番号を一応書いておいた。後で気がついたのだが、その日に投函したハガキがその日の内に届くとも限らない。
  道の途中宿の隣のアジア民族造形館まであと8kmという看板が出ている。人の歩く速さが平均1時間4kmだとして、2時間もあれば着く計算になる。歩くのが大好きな私としては大した距離ではない。問題は距離ではなく、その道程だ。民家はだんだんとなくなり、細い山道になってゆく。樹々で周りが覆われ、電灯もないのですぐに真っ暗になった。こんな道をこの時間に歩いて、果たしていいものだろうか?  ふと脇にある看板をみると、「獣猟制限区域」と書いてある。看板を出して制限せねばならない程ここら辺には何か獣が出るのだろうか?  道は更に細くなり、ガードレールもなくなった。落ちれば谷底へ真っ逆さまだ。アジア民族造形館まであと4kmという看板が。その辺りでついに私は宿に行くのを諦める事にした。
  しかしこの一晩をどう過ごせばいいだろうか?  もう野宿はいやだ。どこか屋根と壁のついている建物はないものか・・・・