語り出したら長くなってしまいそうなので、適当なところで区切りをつけるためにも①としました。


ユイコが精神科に通うようになってから今年で六年になるのですが、そもそもの発端は自律神経失調症由来の不眠症と拒食と不安神経症でした。何故そのような症状が出たのかはまったくもって明快なことで、ユイコ母とユイコのダンナの折り合いが非常に悪かったのです。まあ、この件に関しては途中経過は喧嘩両成敗と見ても、原因をつくったってことに関してはダンナが100%悪い、とユイコも思っています。


何があったのか。


今、考えればユイコとダンナをくっつけるためのコンパだったのかもしれないですが、実際はそんな感じではなく、メンツ的にも既婚・未婚入り乱れた身内の飲み会的な酒の席で友人に紹介されて知り合ったのが今のダンナでした。当時25歳だったユイコはダンナを36歳、某大学講師と紹介されたのですが、しかし、それは友人の勘違いで、ダンナは実は四十一歳で講師といっても常勤ではなく非常勤。しかも、入籍してからわかったのですが、健康保険を支払っておらず、風邪をひいても病院に行けない始末。ユイコはパパが某大学教授だったので、結婚したらまた私学共済か~などとのんびりしたことを思っていたのですが、いざ、婚姻届を出しに行くぞという段になってすべてを打ちあけられて、目の前が真っ暗になりました(非常勤講師はアルバイトみたいなものなので私学共済ではない)。それでも、そのころはまだ翻訳アルバイトも順調だったし、ふたりで稼いで家計を支えていく方向でやっていけばなんとかなるか! と気持ちを切り換えてすべてを許しました。ダンナの方もいつ切り出そうか迷いに迷って、断られた時のことを考えるとものすごく怖かったと言っていたし、それくらいの「罰」が前もってあったのなら、ユイコから改めて「罰」を下すこともないと思い、「これからは正直に何でも言ってね」ということと「年齢と職業のことはユイコ母にはあなたから言ってね」ということを言ったんでした。


なのに言わなかったんだよね。


それがひょんなことからバレまして。


結婚したんだからと思って、生命保険の死亡時の受取人をユイコ母からダンナに変更するための書類を書いたのですが(これにもユイコ母、マジギレ。『どうせ男を選ぶなら娘なんか生むんじゃなかったわよ!』『あんた、ろくな死に方しないからね!』とまで言った)、出入りのJAの職員さんに渡しておくからって言うからあずけた封筒をユイコ母が覗き見した(それはそれで卑怯で卑屈で汚い行為だと思うのだけど、そのあたりのモラルはどうなっているのかしら? あのクソバカ女)。そうすると書いてあるじゃない? 受け取り人欄に氏名と生年月日が。それでブチきれて。ソッコー電話。ユイコん家にも電話。ダンナの実家にも電話。それがまたダンナの実家の方でも行き違いがあったらしく(というか、今ではダンナが故意にそうやって親をだましていたのではないかと思っているのだけれども)、「十六歳の歳の差があることはユイコさんもご存知だったはずですよ。お母様もご了承だと伺っていますよ」とか言い返されて何やら「あんたたち全員であたしのことをだましてるんでしょう!! この詐欺師の集団が!」的なことを叫んでブチきったらしい。


そのあとハガキで同じようなことが書き送られてきて、落ち着いてもう一度愚息とのやりとりを思い出されては如何でしょうか、みたいなことが書き添えられていたが、当然ダンナは話していなかったわけで、思い出すもクソもなく、またマジギレ。


「あんたンとこのダンナの実家から失礼なハガキが来たわよ!」みたいな感じで早朝(七時くらい?)からユイコに電話攻撃。三時間くらい続いた。こっちは眠剤が効いていたから、さすがに途中から目が覚めたけれど、最初は何がなんだかわからない状態。言い返そうにもロレツもまわらなくて、ダンナは背中向けて雑誌なんか読んでやがるしマジムカついた。


ずいぶん後になって、年齢のことも告白して、なんとか「和解」にこぎつけた後、ユイコ母には黙って「あなたのお父さんこういうハガキ送ってきたけど、ウチのお母さん黙って耐えてたよ」と言ったら、ソッコーで電話して謝罪文を寄越させていましたが……悪いの、あんたじゃんね?


ユイコ母は、曰く、婚自体には反対ではなかったのだけれど(とは言うが信用できない)、ユイコ父が他界して間もなかったのでもう少し間をおいて……みたいなことをずっと考えていたらしい(ユイコは結婚もしてないのにひとつ屋根の下に棲むよりはきちんと結婚して一緒に暮らした方が精神的にもいいし、税金対策とかにもなると思ったの。だいたいユイコのすることにパパが反対することはないと思ったし)。しかし、同じ頃、ユイコが元々あった地方銀行の口座からあたらしく開設した都市銀行の口座にお金をうつそうと思ってユイコ母がもっている銀行のハンコを借りにいったら「この泥棒猫が!!」とののしられました。自分のお金なのに。ユイコが稼いだお金なのに。


とにかくそんなことばっかり続いていた侃々諤々の毎日なのでこのあたりのことは詳細は今もよく思い出せないです。あることないこと片っ端から毎日電話でののしられつづけた。毎日ののしられて、あんたなんか生むんじゃなかったと言われ、ダンナが100%悪いとわかっていても、ユイコがユイコ母に同意してしまったらダンナは孤立無援になってしまうけど、ユイコ母は地元の出身なのでユイコ祖母もいれば姉妹も健在だったし、とにかくユイコ母が孤立することはないとわかっていたので、ダンナの孤立は避けなければならないと、色々と提案したり、なだめたり、ダンナにはやく年齢誤魔化してましたってアタマさげてきてって言ってもきいて貰えなかったり……そんな心労が重なって気がついたらユイコは仕事も出来ず、リスカやODして気持ちをまぎらわせながら、ものも食べられなくなってしまいました。


食べるとキモチワルイ。吐きたいんだけど、吐けない。ラーメン一杯も食べられない。コンビニのおにぎり一個で一日もつ感じ。


主治医は「過食嘔吐よりいいです、吐けない方が身体にはいいんです」と言ってくれたけど、ユイコは吐いて吐いて吐きまくりたかった。それは今も変わりない。過食したら吐きたいと思う。幸か不幸か最近、吐き方がわかってきた気がする。食事の後とかにお腹に力をいれると吐き気になることがわかってきた。ちょっとコツがいるんだけど、がんばったら過食嘔吐も出来かるかもしれない。そうしたら食べたもの全部戻してしまいたい。痩せたい。


そのころ、ユイコには体重が40キロしかなくなっていて(ユイコ、身長160センチあります)、もってる服、全部ウェストがばがばで、仕方ないから服を買いに行ったんだけど、店員さんがもれなく「細いですねー!」て言うの。アレ、快感だった。だから、あれくらい痩せたい。


話はそれるけれども、ユイコの外見コンプレックスってものすごいらしくって、バストはFカップ92センチ、ウェストは58センチ、ヒップは89センチくらいで、体重は40キロ、手足は細く長く、別に美人ってわけではなくてもいいから人前にでて恥ずかしくないくらいの容姿、それがあればいい。でも、現実って肌荒れがあったり、乾燥肌で化粧水があわなかったり、大人ニキビが出来たり、なかなかヘアカットにも行けなかったり、何より仕事も出来ないからおしゃれな服を買うお金もなくって、ユイコが思っているような理想の美人にはなれない。別に高望みをしているわけではないの。ユイコの思っているとおりにしたいだけなの。


ホントに話それたな……。


そんなわけで、常にユイコ母とダンナは一触即発です。ユイコの病状も安定しません。ダンナはゴミ出し手伝ったりしていいムコを演じているけど正直ウザいとか言ってるし、いつまたキレるかと思うと怖いです。


ユイコは、安心して、暮らしたい。