帰りの電車で、隣の席に中国の人が座っていたのだが、
乗り換えも同じタイミングで、
だが、これは生まれて初めて見る!というくらいの駿足で、

席を立ち、
ドア前にはだかり、
人の間をすり抜け、
エスカレーターを一気に駆け降りた。

その間、
わたしは、まるで、その長い体の足先だけを、さささっと動かし、

忍術か、
あるいは格闘家のごとき静けさとスピードで、
一気に駆け行く彼に気をとられ、

いや、いつものようにぼんやり、

スコーンっ と、
脱げたパンプスを拾い上げ、
片足だけ裸足で、
よたよたとエスカレーターを降りた。

見上げた先に、
すでに、
その人の姿は跡形もなく。

きっと時代が時代なら、
ああいう東洋人に、
神秘やファンタジー
(オリエンタリズムとか)
を、
求めかねない。

と、納得をして。
ひとり感心。

上りエスカレーターをすれ違う集団が、
「速っ!」
と、口を揃え振り返るくらいに、
彼の動きは、
輝いていた。

しょぼしょぼと、
疲れ果てたちいさな目を、
文字通り、見張った、帰り道。