忘れかけた舟(ゆりかごの客船にて) | ほらでいっぱいの町にぼくのうそが白い息と共に流れてる

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わたしはかもめ。飛べないかもめ。日記みたいなもの。

その波は何処から来て、
何処へ向かうのであろうか?

そもそも、忘れられた舟はただ漂うしかできないのであるが、しかし、それなりの意思は持っている。
持ち主だった老人は大きな波と共に消えていった。
必死に舟にしがみついて、波にのまれないようにしている握りしめた力強さはいつまでも記憶に残っている。
何も出来ない自分を恨んだ事もあった。
しかし、恨んだからと云って、どうしようもできないのが万物として生まれてきた哀しさである。

いつまでも続く海を漂いながら、自分が朽ちていくのをゆっくりとであるが、確認できた。上部は暑すぎる太陽の熱を嫌というほど浴びて、底部はずっと海水に浸ったままである。

もし、誰かがこの舟にたどり着いたとしても、舟に手をかけた時に、ボロボロと砕け散ってしまうだろう。

舟が望む事は、老人を連れ去った波が戻って来る事。
そして、海の底へ到着した時。
老人が待っていてくれる。

そんな事を思っていた時に、何か気配を感じた。
一羽の鳥が止まった。

「ぐすれるよ」
舟は勇気を出して話し掛けてみた。
「大丈夫だよ」
鳥が答えた。
「わたしの言ってる事がわかるのか?」
舟は驚いて尋ねた。
「あぁ。」
鳥は言葉少なく答えた。
鳥はあまり詮索しないで欲しいのかもしれない。
舟は話し掛けるのを止めた。
ゆっくりとした波が静かに舟を流していく。

「いよいよお別れだ。」
鳥が言った。

「そうみたいだね。」

「後悔はしない?」

「どういうこと?」

「ぼくと『旅』に行かないか?」

鳥は言った。

波のない状態で舟は軽く揺れた。
「もう無理だよ」

鳥は舟の決意を察して黙り込んだ。

「君が飛び去った時、君の居た場所は朽ちて海水がなだれ込んでくる。
それはわたしが希望した事だ。お礼を言うよ、ありがとう。」

「さようなら。」

忘れられた舟は、ひとつの役割を全うして、飛び去った鳥とは異なる、新たな『旅』を目指す。