「踊りませんか?」
1956年のわたしがそこにいる。
シワのない長い裾のジャケットを着て、髪はオールバックに決めている。
わたしの頭はまるでレコードの溝の様だわ。
と、パーティで出会った女性が言った。
「じゃ、お嬢さんの為に歌いましょう。」
わたしはプラターズの「オンリー・ユー」をアカペラで歌った。
2番からは、ピアノの伴奏がついて来た。
ピアノの間奏が続くのを、ピアニストと目配せを済ませ、わたしは彼女に近づいたわけだ。
あの繋いだ手の柔らかさ、煌めくような微笑み。
私達が踊る姿を踊っていた人達が足を止めて見取れていた。
スポットライトが私達を照らし、しばらく踊りつづけた後に、私達は踊りを止めて見つめ合う。
それが合図に、ピアニストは間奏を解いてゆく、
わたしは彼女を見つめながら、歌い上げる。
なりやまぬ拍手。
私達は抱き合い口づけを交わす。
すべては1956年の仕業だ。
「おじいちゃん。眠ってるの?」
孫のユキが心配そうにおじいちゃんの顔を覗き込みながらおばあちゃんに問い掛ける。
「そうね。」
「おじいちゃん。笑ってるよ。」
ユキがおばあちゃんのもとに駆け寄った。
「きっといい夢でも見てるのよ。」
「そうなんだ。」
おばあちゃんは、おじいちゃんがまどろむ姿を見ながら言った。
「今が1956年なら素敵でしょうね。」
ユキがキョトンとした顔でおばあちゃんを見ている。
いたずらっぽく笑う彼女は1956年のままだ。
きっと、おじいちゃんは気がついているはず。
まどろんだ瞳を少し開けて、まぶしげに彼女を見ていた。