にじをつかまえて(上) | ほらでいっぱいの町にぼくのうそが白い息と共に流れてる

ほらでいっぱいの町にぼくのうそが白い息と共に流れてる

わたしはかもめ。飛べないかもめ。日記みたいなもの。

保育士のあやは廊下を通る度に、小さなグランドを見てため息をついていた。
この保育園に勤めて3年目の5月、新しい児童を担当する度に頭を痛める。ここの園長の方針で『自由気ままに育てる』と云うスローガンに軽い抵抗を覚える。確かに卒園を迎える2月頃になるとこの言葉を意味を理解する。自由な発想の中から真理を見つける。自由ではあるがそれはわがままではない。自由になる為には様々な人との交流があって生まれる。
園長はそういう意識を産むイベントをたくさん用意している。話を聞けば以前は出版社に居たらしい。彼女自身、それ以上は話したがらないので、あやもそのままにしておいた。

いつものようにグランドを見るとひとりの児童が砂場の真ん中に体操座りをして空を見上げていた。
お昼寝の時間は終わったんだけどなぁ。
とつぶやきながら、あやは児童のもとへ向かった。
「どうしたの?お昼寝の時間は終わったわよ。部屋に戻りましょ。」
と児童の背中に声をかけた。児童は聞こえていないのか無反応である。
あやは児童に向かい合った。
「かいくん。どうしたの?」
自分の担当の児童で、おおまえかいと云う男の子だった。
かいくんは、あやの顔をちらっと見て、
「せんせい、ぼく、にじをまってるの。」
と言った。
「にじ?」
「うん。」
かいくんは笑顔でうなずいた。そして、また空を見上げた。
あやもかいくんの視線の空を見上げた。梅雨前の快晴である。
「かいくん。あのね…。」
あやが虹の説明をしようとしたが止めた。
かいくんの真っ直ぐな瞳を見るとそれは言わない方がいいかもと判断した。ただ、午後のお遊戯の事もあり、
「かいくん。にじはもう少し出てこないみたいだから、みんなといっしょにおゆうぎしましょ。」
と言い聞かせた。
「せんせい。」
「なぁに?」
「にじはまってくれる?」
戸惑いながらも、あやはうなずき。
「うん。かいくんがいいこにしてくれたらまっててあげるって。」
「ほんとうに?」
「ほんとうよ。おゆうぎが終わったらまた、ここにきましょ。せんせいもいっしょにまってあげる。」
言ったあとに、しまった。と感じたが、なんとなく、これで間違いはないと云う根拠の無い自信があった。
「じゃ、もどりましょ。」
とあやが声をかけると、
「はい!」
と、かいくんは元気よく立ち上がり、部屋に向かってかけて行った。
かいくんの背中を見つめながら、ふと虹が出ないように空を睨んだ。

(つづく)