「悪夢」
本州の前半までは孤独な一人旅だったが九州に上陸してからは旅仲間の二塀さんと出会った事で一味違う旅を味わうことが出来た。
そして自然や大地に溶け込める感覚が堪らなく心地よかった。
今夜も仲間と楽しく過ごした。
平戸のユースは週末と言う事もあってかなり宿泊客がいた。
ライダーも何人かいた。
部屋で二塀さんと楽しく晩酌をしていたら館内放送で呼び出されて電話がかかってきていると言われた。
こんな旅先でしかも名指しで一体誰だろうと私は不思議に思いながら電話に出ると受話器の向こうから聞きなれない男性の声で私の名前を呼ばれた。
「萩のユースで君と同じ部屋に居た者だけど北九州のユースで待ってたのに何で来なかったの?」私は言葉に詰まった。
そして名前も教えてないのに何で知っているのか不思議に思ったがそれは宿帳を盗み見したのだと悟った。
「どうしてここに居ることがわかったんですか?」と聞き返したら「いやあ、探したよ。九州のユースに隈なく電話かけたよ。やっと見つけたよ。今度はどこに行くの?下着あげるからさ。」まるで今で言うストーカーであった。
あまりに気持ちが悪いので私は「二度と探さないでくれ下着もいらないよ!」と捨てぜりふを吐いて受話器を切った。
途端に背中に悪寒が走って血の気が引くのを覚えた。まさしく悪夢であった。当時には個人情報保護法などは存在さえしない時代であったがそれでも旅先に片っ端から電話をかけてくる変質者は何とかならないものか或いは宿泊先の管理者が電話で誰は居るとか居な
ざわついた気持ちを抑えるために再び二塀さんと飲みなおした。