200Q  <G6>
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「お待ちしておりました」

オイラの来ることがわかっていたのか、それともこの店のお決まりなのか。
そういや「よろこんで」っていう居酒屋もあるな。
ただ、虚をつかれたことは確かで、一瞬どぎまぎした声を発したかもしれない。

今日は朝から「昆虫」に憑かれていた。
通勤電車まち、目の前で待っている人の背に淡緑色の虫が右往左往してた。
電車内で飛び立つかも、乗る前に叩き落としてやりたい。
そんな衝動を覚えつつもオイラはただその動きを見守っていた。
車内でも相変わらず右往左往、やや混んでいて30センチほど離れるのが
やっとだった。次の駅で乗り込む人が中を割って入り彼の背は見えなくなった。
割り込んだ人はすぐに次駅で降り、背中がまた目の前に迫った。

あれ? 虫は消えていた。さっきの人についていったのか?
おや? なにかくっついてる。黄土色した粒の塊。産卵してったのか?
気になる。だが乗り込んでくる人に流され背はオイラの反対方向に向きを変えた。

新しく乗り込んできた中年カップルが目線をあわせ笑ってる。
その目線の先が気になり少し体を乗り出し覗き込んでみた。
男性のズボンのポケットの入口付近に「青虫」がいた。
「つ」、「し」の字を書いていたのだ。
おいおい、今日は変だぞ。思わず自分の背中や尻付近をはたいた。
大丈夫そうだ。だが、耳元やあご付近が痒く感じた。

そんな日の夕暮れ時に、「お待ちしておりました」なのだ。
よぉく見ると、マスターの目が昆虫の眼のように思えてきた。

ややギョロリとした眼は黒い部分が大部分を占めている。
トンボのようでいてあまり眼を動かさずに会話をするようだ。
先週、店はお休みであったこと。オーナーが留守番で来ていたこと。
など、順繰りに話してくれたのだが、胡散臭いつくり話のようでならない。
昆虫が本当のことをしゃべる訳がない。
どうも、疑心暗鬼になっているオイラなのだ。

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