根付「蟹」の件1。 | 根付・帯留 鹿角細工工房「鹿正洞」ブログ

根付「蟹」の件1。

御得意様より、

根付の御注文を賜った。

これもかれこれ三年越しの御依頼。

まずは辛抱強く御待ち下さった

依頼者様に深謝申し上げたい。

<(_ _)>



さて、今回御依頼者様から賜った

御題は

「カラッパ」。

カラッパは世界中の温帯〜熱帯海域

に生息するカラッパ科カラッパ属の蟹の総称。

日本にはトラフカラッパ・メガネカラッパ・

ヤマトカラッパなど11種が分布している。



まるでおむすびのような、

ころんと丸く愛らしい姿。

体表をイボ状の突起と

鮮やかな斑紋が覆っている。


そんなカラッパを

十肢を畳んだ姿で克明に彫れ、

との御用命。


当然ディフォルメは有れども、

これはもうそのまま

技で御応えするしかない。


それでもどうにか

写生に留まらない、

鹿正ならではの何かを

織り込めはしないかと、

こんなスケッチを描いてみた。





命銘、根付「蟹」。


十肢を全て殻の内に納め、

丸く佇むカラッパ。

僅かに両眼を突き出し、

辺りを窺う。




掌中にすっぽりと収まり、

コロコロとずっと愛でたくなる

サイズと形状・色艶を目指す。



鏡蓋根付の構成を採用。




蓋裏に紐通しを兼ねた

千手観音像を遇らう。


蟹に千手観音。

これは一体、如何なる由縁か。


実は、各地で広く見られる

蟹に絡んだ伝承に

「蟹坊主」というものが有り。


これは、

人が度々失踪する廃寺に、

旅の僧が泊まる。

すると夜半に、

やはり仏僧の姿をした

何者かが現れて

「両足八足、横行自在にして眼、

天を差す時如何!」

と問答を仕掛け。

旅僧が「貴様は化蟹であろう!」

と答えて独鈷杵で打つと、

その者は二間(3.6m)も有る

巨大な蟹の正体を現して

絶命する。

大蟹の亡骸からは

千手観音が出現し、

旅僧は自らこの寺の住職となり、

本尊として祀る、というもので。



(『救蟹伝説掛軸』山梨県山梨市 長源寺蔵)


千手観音は千本の手と、

それぞれに携える

様々な持物によって

一切の衆生をも漏らさず

救済する菩薩。



(京都 法勝寺の千手観音像)


この説話の意味は、

多くの人を殺めた迷う蟹の魂を

旅僧が救済して菩薩に昇華させる、

もしくは業深い魔物ですら秘める

仏性を法力が引き出す。

というものなのだけれど。

紛れも無く多脚の蟹を

多腕の千手観音に結び付けた

結果なのであろう。


思えば新型肺炎禍に国際紛争と、

暗い話題ばかりの昨今。

全ての衆生済度の願いを込めて、

これを彫りたい。


そんな次第なのだ。


続く。


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