鍔根付「花に車」&「牡丹に猫」の件。 | 根付・帯留 鹿角細工工房「鹿正洞」ブログ

鍔根付「花に車」&「牡丹に猫」の件。

少し前に書いた、
武道の姉弟子から受注した「鍔根付」二点。
「花に車」と「牡丹に猫」の件

遅まきながら、スケッチをお披露目したい。

「スケッチ」とは、即ち「デザイン画」のこと。
他の細工師さんがどうされているか? は知らないけれど。
鹿正洞では、最初にスケッチで意匠を検討することに決めている。

そこには僕自身が、
頭の中で構築した造形を紙の上で練り上げる意味と。
また、その成果を依頼者さんと共有する意味の二つが有って。
どうにも外すことが出来ない。

僕自身が納得して、依頼者さんから「GO」を頂けば。
余程のことが無い限り、
「スケッチで固めた意匠そのまんま」を彫り上げる。
これが僕のやり方。

因みにスケッチは「100円のボールペン」のみで描く。
これは、僕が工業デザイン出身だから。
この、ボールペンという筆記具。
線の強弱が自在な上に、筆先形状が全く変化しない。
意外に思われるかも知れないが、
実は「物凄く描画向きの画材」なのである。



さて、今回の二点。
セットで受注したものだから、大まかな輪郭は共通にした。
短刀用の、木瓜鍔(キュウリの断面みたいな形をした鍔)。
少~し「下ぶくれ」にアレンジしている。

以下に、各スケッチの解説を。



まずは、

■ 「花に車」

根付・帯留  鹿角細工工房「鹿正洞」ブログ-花に車

「花」と言えば、「桜」。
表には、まだ蕾を残す八分咲きの桜。

桜の下には「方輪車」。
絵巻物や着物の柄で御馴染みの紋様だ。
花見に寄った、貴族の牛車といった所か。

裏では花弁が散る、盛りを過ぎた桜。
やや儚げな表情。
牛車は去って、もはや「方輪車」は見えない。

図柄が裏面に続く、所謂「返し文」と呼ばれる手法を採り。
今回はそこに「時間の経過」を織り込んでみた。



続いて、

■ 「牡丹に猫」

根付・帯留  鹿角細工工房「鹿正洞」ブログ-牡丹に猫

禅話「牡丹花下眠猫児」からの取材。
大輪の牡丹。
その下で眠る猫。

牡丹はまるで、猫を包み込むように。
猫は何の警戒心も無く、ただ無心に眠る。



このスケッチ、有名な「日光東照宮の眠り猫(↓」

根付・帯留  鹿角細工工房「鹿正洞」ブログ-牡丹2

とは全く違う解釈である。
東照宮の猫は、目をつむってはいるものの。
前足はしっかり踏ん張っていて。
「実は眠ってはいない」とも言われる。

基本的に、世に有る「眠猫児」はこの解釈ばかりで。
僕は例外を見た記憶が無い。

しかし...。
前回の独り問答で僕が得た答えは、
「日光猫の状態」ではないのである。
もし上から花が落ちて来たら、素早く避けよう。
こっちに行こう。あっちに跳ぼう。
平常心の振りをして、実は色々と用心/画策している状態。
...ではなく。

危機に直面して、本当に眠るように。
穏やかで無心たること。
これなのである。

故に、僕の猫は四肢を畳まず。
地に身を投げ出して、安らかに眠る。
耳もピンと立てず、ちょっと前に倒して。
ウチの猫も、警戒してない時はこんな風に寝ている。

こちらも足先と尻尾は「返し文」で、ちょっとシャレてみた。



この案件、こんな感じで進行している。
今後の経過は、随時当ブログで報告して行く予定。


***************


根付【ネツケ】や帯留【オビドメ】、簪【カンザシ】なんかに
御興味をお持ちの皆様。

グルっぽ「和装細工品 ~根付/帯留/簪~」にどうぞ御参加を♪