【六車奈々、会心の一撃!  〜スパゲッティとエロス~】 

モデルの仕事をしていた20代前半。
かなりの数をさせて頂いたのが、カラオケの仕事だ。
当時はカラオケが大ブーム。各メーカーがこぞって歌詞の後ろで流れる映像を撮った。

夏の暑い日、線路の上をひたすら走らされた撮影もあった。
そう、爆風スランプ『ランナー』だ。後に自分がアミューズに入り、サンプラザ中野さんとお仕事をさせて頂いたときには、このネタが大いに役立った。
「実は私、『ランナー』のカラオケに出てました。ひたすら線路の上を走らされて、ムカつきました(笑)」
この話にサンプラザさんは、大喜び。その後のイベントでも
「楽屋で聞いたんだけどさ、六車は『ランナー』のカラオケに出てたんだって!」と話し、会場も大いに盛り上がった。

またある時は尾崎豊『15 の夜』で、男の子と手と手を取り合い、バイクを盗んだ。
松田聖子『制服』では、大阪城公園の中、セーラー服を着て彼と戯れあった。彼は『同級生』という設定だったが、スタッフの男性が演じたため、どう見てもコスプレしたオッサンが、女子高生を追いかけまわしているようにしか見えなかったが。

最も困ったのは、工藤静香『Blue Velvet』である。

「とにかく男を惑わす、色気たっぷりの魔性の女になってください!」

開口一番、監督からお願いをされた。

「魔性の女ですか!?」

私の人生で最も縁遠いのが、『魔性』やら『色気』の類である。ましてや23歳の小娘だ。そのような芸当ができるはずもない。

「いやぁ、私全く色気が無いもので、すみません。」
「さぁ、これに着替えて。」

私の『色気無いアピール』はアッサリ無視され、監督から衣装が渡された。
スパンコールが全身に散りばめられた、真っ青なロングドレス。まるで青魚だ。肩紐はちょっと引っ張っただけでも千切れそうなほど細く、胸はザックリと開いている。どう見ても、夜のお店のお姉さんが着用するセクスィーなヤツである。

「ええっ?これですか?」 
なんて反論する余地もなく、スタイリストに別室に連れて行かれ、着替えをさせられた。

よし!頑張るしかない!
私は気合いを入れた。

なになに?
今回のストーリーはと。。。

セクシーなブルードレスを着た女が、夜の街へと出かけていく。人気のない道を歩いていると、向こうから男が歩いてきた。男に狙いを定めた女は、すれ違う一瞬で、男をたぶらかす。女の魔性に瞬殺された男は、そのまま女の部屋へ。
テーブルに向かい合って座る二人。
二人はスパゲッティを食べている。
女のスパゲッティの食べ方が、セクスィーだ。
エロい。エロすぎる。
男は、女の唇から目が離せない。
女は立ち上がる。
男も立ち上がる。
二人は手を取り合い、窓際で抱き合う。
抱き合った女の顔に、カメラがズーム。
『この男も、カンタンに落ちたわね。』
女の勝利に満ちた表情を捉えて、ジ・エンド。

きゃー!何コレ?
スパゲッティをエロく食べるって、なんだ?
私は心臓がバクバクしてきた。
ひぃぃぃぃ。帰りたいよぅ。。。

撮影は、部屋の中から始まった。
いきなり二人でスパゲッティを食べるシーンだ。

用意されたスパゲッティは、当時人気急上昇のカップ麺『スパ王』のタラコだった。しかしタラコが歯に詰まってはエロさが出ないという監督の意見で、お湯で柔らかくしただけの味無しスパゲッティが皿に盛られていた。

「では、男を誘惑するように、スパゲッティを食べてください。」
「えっと、、、。誘惑するようにって、、、?」
「外国映画であるような、エロい食べ方ですよ。ほら、わざと口の周りをベロリと舐めたりする、あれです。」
「あぁ、何となくわかります。」
「口元がポイントですよ!口はエロスの象徴ですからね!」

はぁぁぁぁ。恥ずかしい。。。
色気のイの字もない私が、なぜここでキャスティングされてしまったのか。

しかし、これは仕事だ。別にオッパイを出してくれと言われているわけでもなく、ちょっとセクシーな演技をするだけじゃないか。
なぁに、大したことではないさ。
私は恥を捨てて、やり切ることにした。
そうだ!
恥ずかしがる方が、恥ずかしいのだ!
私はおもむろに、スパ王を口の中に入れた。

「ゴフッッッ!!!」

「ハイ!カットー!」

すぐにカメラが止められた。

「入れすぎ!食べるのが目的じゃないから!」
「ハイ。。。」
「さぁ、気を取り直して。本番!」

静まりかえる部屋の中、私はスパ王を少なめに口に入れた。男を執拗に見ながら、いやらしく口の周りを舐める。

「いいねぇ!その調子!」

監督が声をかけてきた。
カラオケ映像というのは、録音が必要無い。したがって、本番中でもドンドン監督の演技指導が入る。

「もっと舐めて!もっといやらしく!そう!口は、アソコと一緒だ!出したり入れたりするだろう?」

村西とおる監督ばりに演技指導が入り、女は、不自然なほど口の周りを舐めながらスパ王を食べた。
いや、もはやスパ王とセックスをしていた。
スパ王が、女の口に入る。
そのスパ王を、舌で遊ばせ、弄ぶ女。

そうよ!
私は、魔性よ!
かまきり夫人なのよ~!!!

「カーーーーット!!!」

監督の声が、部屋に響き渡った。

「オッケーイッ!完璧!」

きゃーっ!!!
OKが出たーっ!!!

私は全身の力が抜けた。
はぁぁぁぁ。疲れたぁ。
ホンマに疲れたぁ。
こんなに疲れてスパゲッティを食べたのは、後にも先にもこのときだけだ。

もしあなたが工藤静香『Blue Velvet』を歌って、カラオケ映像にスパゲッティをエロく食べる女が出てきたならば、それは間違いなく六車奈々だということをお伝えしておこう。

note:『六車奈々、会心の一撃!』


奈々