【六車奈々、会心の一撃!  ~約束~】


両親は、高校の同級生だ。


「足が太いなぁ。でも顔はめちゃ可愛いなぁ。」と父の一目惚れで片思いが始まり、修学旅行で父が告白して、二人の恋は始まった。


スマホが無い時代。厳しい家に育った母との恋愛は苦難もあったろうが、二人は二十三歳で結婚をした。昭和四十七年のことだ。


当時は今ほど簡単に海外へは行けなかったが、二人は奮発をしてハワイへ新婚旅行に行った。


最初に感動したことは、「こんな時間でも一緒にいられる」だった。


門限が厳しかった母は、好きな人と好きなだけいられる喜びを人生で初めて味わった。


ハワイは最高だった。


街を行き交う人々が陽気だ。「アロハ~」と見知らぬ自分たちにも声をかけてくれる。豚の丸焼き、ダイアモンドヘッド、お揃いのムームー。あまりに幸せ過ぎた新婚旅行。二人は「必ずまた来ようね。」と約束を交わした。


翌年、私が生まれた。二年後には妹も生まれ、両親は仕事と育児に追われた。


父の仕事は和装小物を作る職人だ。手作業で丁寧に作っても単価は安い。毎日深夜まで働く父。そんな父を、母は助けた。


両親は何かにつけ、ハワイ旅行の話をした。


「また行きたいなぁ。」


「楽しかったなぁ。」


生活に追われる毎日。


ハワイ旅行など、到底叶いそうにない約束であった。


私と妹は大学生になった。ある日、両親の銀婚式が近いということに気づいた。


「銀婚式かぁ。どうやってお祝いすれば喜んでくれるやろう?」


「そうや!ハワイ旅行や!」


私たちは最高のプレゼントを思い付いた。


「幾らかかるか調べよう!」


「五十万円あれば行けるわ」


「よし!二年間で貯めるぞ!」 


私たちは、ハワイ貯金を始めた。


新しい通帳を作り、毎月一万円ずつ入れようと約束した。


苦しい月もあったが、これは約束だ。どんなに辛い月も、姉妹はともに約束を守った。


「やった~!ついにやったぞ!」


二年後、貯金は目標の五十万円に達した。


妹と私は抱き合って喜んだ。何度も何度も通帳を見返した。


銀婚式当日。両親を食事に連れ出した。


美味しい料理に舌鼓を打つ両親。しかし私と妹は、味など分からなかった。早くハワイ旅行を伝えたくてウズウズしていたのだ。


ようやく食事が終わり、デザートが運ばれてきた。


今だ!


私と妹は目配せをした。


「お父さん、お母さん。銀婚式おめでとう!これは私たちからのプレゼント!」


両親は驚いた。


「え?食事の他に、まだ何かあるの?」


「そう!開けてみて!」


父には通帳を、母にはハワイのパンフレットをそれぞれ渡した。


「え?何、これ・・・?」


「新婚旅行でハワイに行ったとき、また来ようって約束したんやろ?だから私らがその約束を叶えようって、二人で貯金してん。これでハワイに行ってきて!」


「ありがとう!!!」


そう大喜びしてくれると思ったのに、二人は微動だにしない。


「いつの間に、こんなこと・・・。」


「毎月二万円入ってる。大変やったやろ?」


二人が二人とも泣いていた。


そして震える小さな声で、何度も「ありがとう」と言った。


こうして両親はハワイへと旅立った。


思い出のホテルに泊まり、新婚旅行で購入したムームーを着て、ハワイ旅行を楽しんだ。


両親が新婚旅行で交わした約束は、私たち姉妹の約束によって叶えることができたのだ。


どうだ。私だって、たまにはイイ話をするのだぞ。


さて両親だが、3年後に金婚式を迎える。


50年も連れ添うって、どんな感覚なのだろう。


はてさて、どうやってお祝いをしようか。


うーむ。銀婚式があまりにもドラマティック過ぎた。


お父さん、お母さん。3年後、乞うご期待!


note:『六車奈々、会心の一撃!』

https://note.mu/nana_rokusha




奈々