〔全回からの続きです。〕



そうして出勤した私だけど、

バックヤードからの重いドアを押して

中に入った途端に縮みあがってしまった。



開店前なのでまだ薄暗くて

掃除をしているスタッフの姿もまばらだ。



でもね、

それなのに、

私がいつも勤務している

大人のフロアーとは空気が

全く違ってるんだわ。



空気が軽い・・・



空気に青々とした新鮮さと透明感がある。





そんな空気に戸惑いながら

勤務する店へ辿り着く。



いつもだったらおばさんは

躊躇するような店の中に

踏み込んでいく。



一歩入っただけで

場違い感を感じるけど

そんな事は言ってられないのだ。



それにしても若い子のブランドの服って

なんて軽やかでキラめいているのであろう。



そんなことに感動しつつも

大いなる疎外感も感じた私であった。




そうして早番はひとりなので

掃除や開店準備を済ましていると

フロアーの朝礼の時間となったので

私はある作戦を立てたんだ。



なにしろ全員が若い子ばかり。

それも20代ばかりで

店長クラスで30代なのか・・・?



そんな若い列に一緒に並ぶのは

あまりにも自分の年齢が邪魔をする。




後ろの列に立てるよう、

ワザと遅らせて並びに行ったのだわ。



身長の高い子の後ろに立ち

姿が隠れるように

ひっそりと縮こまった。



それでも全身に感じる、

自分の中高年と言う年齢の重たさ。



同世代ばかりだと、

そんな重さは微塵も感じないのに、

若さのエネルギーは、

何と残酷で容赦がないのか!



如実に露わに曝け出されているようで、

孤独感もヒシヒシと感じてしまう。


グスン。


こんな時、

若さを吸い取ってヤルゾー的な

野心と勢いがあればいいけど、

何しろ相手は30人以上もいるんだ。




それも初めてのフロアーで
知らない子ばかりなので、

そりゃあ、もう、小心者になるだけの私。



老いては若い子に従いますモードを

全身でアピールしつつ、

売上よりも、

時間の経過ばかりを願う私であった。





そんな私を癒してくれたのは、

社員食堂で一緒になった

ミセスブランドの店長で

私より年上のミヤさんだった。



心細さ全開の表情をした私を

不憫に思ってくれたのか、

社員販売のワゴンで、

塩豆大福50円のところ、

40円もカンパして奢ってくれたんだ。



休憩から帰った私は

あとはひたすら退社時間を待つだけであった。



ところで肝心の接客だけど、

なんだか言葉が浮いてしまって

振られるばかりであった。



しゅん。





そうしてやっとの思いで退社時間を迎えた私は、

バックとジャケットを引っ掴むようにして、

逃げるように通用口に走ったのである。