不動産屋を出たあと、淳子に家まで送ってもらいました。
「今日は本当にありがとう。」
そう言って、淳子にも家に上がってもらいました。
私は、どうしても相談したいことがありました。
「昨日の言い争いで、私が『離婚して』って言ったけど……このまますんなり離婚してくれるかな?」
「ごたごた揉めて、長引くのは嫌だな……。」
そう言うと、淳子は、
「う~ん……」と考え込みました。
しばらく考えたあと、
「やっぱり、和信を怒らせないように話を進めていったほうがいいね。」
「ほら……暴力も振るうでしょ。」
「子どもたちの前でそんなことになったら可哀そうだし。」
私は黙って頷きました。確かにそうです。
昨日も、言い争いの中で蹴られました。
もし離婚の話をしたことで和信が逆上したら……。
そう考えると怖くなりました。
淳子は、
「昨日の離婚の話、私は本気で考えているってことを、ちゃんと伝えてみたら?」
と言いました。
「うん……。」
「でも、和信がなんて言ってくるかによって、こっちの返事も変わるもんね……。」
「そうなんだよね。」
私たちは、そんな会話を何度も繰り返しました。
結局のところ、
私がうまく話すしかない。
和信を刺激しないように。怒らせないように。
でも、離婚したいという気持ちは曖昧にしないように。
どう言えばいいのか。どこまで話せばいいのか。
何を言われたら、どう答えるのか。
淳子が帰ったあとも、私は一人で考え続けました。
「もし、離婚したくないと言われたら……」
「お金を要求されたら……」
「子どもを置いていけと言われたら……」
「じゃあ勝手に出て行けと言われたら……」
頭の中で何通りもの場面を思い浮かべて、そのたびに返事を考えました。
まるで試験の答えを覚えるように、何度も何度もシミュレーションしました。
そして夜になりました。
時計を見ると、もうすぐ和信が帰ってくる時間です。
私は落ち着かない気持ちで、和信の帰りを待っていました。
今日こそ、もう一度ちゃんと伝えなければ。
私は本気で離婚するつもりだということを。
そして、和信が帰ってきました。