紆余曲折の中で迎える東京での夏季五輪。一年延期の良し悪しはともかく、まだ騒動の渦中にある。だが、ここでコロナ云々を取り上げても、どうなるものでもない。ウンザリした話題ではなく、もうひとつの視点でオリンピックを追うと様々な疑問が浮かび上がる。先ずは「メダル争い」のことだ。
毎度のことながら、オリンピックが近付くにつれ「メダル獲得予想」で盛り上がる日本のマスコミ各社。それも最近は優勝争いではない。金銀銅の総数で評価する傾向にある。でも世界はどうか。各国共に、メダル総数では評価しない。ランキングは全て金メダルの数で決まる。日本でも同じだったはずだが、いつから“総数”に切り替わったのだろうか。あの「ロンドン大会」からではなかろうか。
それまでは日本も、オリンピックに於ける成績の評価基準は金メダル一辺倒であった。金メダルの数で一喜一憂していた。それが2012年のロンドン大会で一変する。何せ金メダルは目標に大きく届かず7個しか獲れない。アテネ(2004年)16個、北京(2008年)9個、そしてロンドン(2012年)7個と大会毎に下がり続けた。
過去の大会と比べて少な過ぎる。ロンドン大会の金7個は1964年の東京大会以降でワースト5に入ってしまう。2020年には東京が立候補しているのに、これではまずい。やっと盛り上がってきた招致活動にも水を差しかねない。なにか妙案はないだろうか。こうして目眩ましのメダル総数に切り替え、金銀銅計『38個』を前面に、銀座で大規模な戦勝パレードを敢行したのは言うまでもない。
こうした甲斐あってか都民の圧倒的指示(約80%)を得た東京都は誘致に成功。しかしまだ物足りなさは否めなない。ロンドン大会以降、リオ五輪に向けて日本選手団には緻密なメダル獲得作戦が練られた。次の2020年は東京で五輪が開催される。金メダルの獲得目標数は世界で第4位だ。競技数が増えることから恐らく30個前後の争いになるだろう。そのためにもリオで17個(表向きは13個)以上の金メダルを獲得せねばならない。結果はどうだったか。
英国はリオ(大会)で27個の金メダル(他に銀17銅13=67)を獲得した。ドーピング違反で出場停止処分が相次いだロシアはともかく、なんと、中国や独仏といったスポーツ大国を押し退けて世界第2位への大躍進である。理由は強化した自国開催(2012年)の遺産に他ならない。北京大会で飛躍し、ロンドン大会(金29個)で頂点を迎えていた。その成果が引き継がれていたということだ。
日本だって負けてはいられない。強化費も相応に配分されている。その成果なのか、リオでの金メダルは12個にまで増産したが、これとて従来の思考からすれば惨敗である。だが、ここでも『総数』が項を奏した。銀8に銅21を加えれば総数では41個にもなる。もう恐れるものは何もない。史上“最多”のメダルを獲得し「日本列島を歓喜の渦に巻き込んで終えたリオ五輪」となった。
総数に異を唱えるつもりはない。選手の日々の苦難を思えば大快挙であろう。しかし強化の面ではどうだったのか。メダル総数で忘れているが、その一方で落とした競技も数多い。ロンドンのメダル種目の内、アーチェリー、サッカー、バレーボール、ボクシング、フェンシングの5競技はメダルを逃している。柔道やレスリング勢の活躍がなければ、どうなっていたやら。
この23日からは東京大会が始まる。強化費もこれまでとは桁が違う。選手に全て行き渡っているか否かはともかく、その費用は一段と増額された。しかし、メダル量産の柔道やレスリングも前回のようにいくとは限らない。金2個に沸いた水泳も、メダル総数ではロンドンを大きく下回り、東京で復活出来るかどうかは不透明な状況にある。採点競技である以上、体操や空手といったお家芸にも不確実な要素が多い。最悪の場合、更なる奥の手を繰り出して、「日本選手団大健闘、8位入賞で過去最多を達成」なーんてハードルを下げることにならねばよいが。
とはいえ、コロナ騒動の影響から、各国選手の多くが調整不足であることだけは確かだ。日本での感染を恐れた不参加組も相次いでいる。ならば日本勢に有利に働かない道理はない。希望的観測を含めて、金25~30、銀10~15、銅15~20、総数では『50~65個』といったところか。
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《余談》
ロンドンで行われていたサッカーの欧州選手権(UEFAユーロ2020)はPK戦の末、イタリアが英イングランドに勝利して、53年ぶりの優勝を果たした。歓喜に沸くイタリアと落胆するイングランドの映像を見るにつけ、その影響力たるや恐ろしい。結果が戦争を招くこともあることから、たかがサッカー、されどサッカーといったところか。
お気付きの方も多いと思うが、この試合では超満員の観客69000人を集めたにも関わらず、マスク姿は誰一人いない。ワクチンの接種効果もあろう。しかし、直近の(英国の)感染者数は35000人と、これまでになく多い。日本の10倍以上である。
感染拡大にも関わらず、マスク無しで超満員の観客を集める欧米のスポーツと、感染拡大を理由に東京五輪の無観客を決めた日本。この違いは何だろう。ワクチンの接種率なのか、完璧主義を貫く日本人の国民性なのか、やはりまだまだ予断を許さない状況にあるのか、それとも・・。