コロナ渦から世界経済は危機的状況にある。前期のGDPたるや各国共に20から30%に及ぶマイナスである。これは約100年前の大恐慌をも凌ぐ。株価も中央銀行の買い支えなどもあって何とか持ちこたえてはいるものの、いつ大暴落するか分からない。内実たるやリーマンショックの比ではないのだ。

 リーマンショックでは金融機関を中心に世界各国で破綻の嵐が吹き荒れた。日本とて例外ではない。バブル期には4万円に迫った平均株価も6千円台まで暴落。日本列島は倒産列島と化した。だが今回はこの比ではない。航空2社の国際線搭乗率は90%以上も減少し、JR各社も半減。ホテルやレジャー産業、百貨店は言うに及ばず、我が国を支える自動車産業も世界経済の失速から大幅な減収減益(赤字)を余儀なくされている。食品やネット通販といった一部の業種を除けば存続の危機にあるていっても過言ではあるまい。

(リーマンショック当時の株価)
(ネットより引用)

 これ迄なら金融、航空、電力(りそな銀行や日本航空、東京電力など)と国営化で凌いだものの今度ばかりはそうもいかない。何せ規模が違う。財政出動には数百兆円規模を要し、これは南海トラフ型巨大地震(復旧)の二つ分にも相当してしまう。大半は放置されるのではなかろうか。

◇〈2009年、米国では自動車最大手のGMまでが国営化に〉

 こうした中、最も影響を受けそうなのが不動産、ことに住宅産業であろう。内需の要であり、不況対策として必ず登場したものが、今回ばかりは様相が違う。景気浮上を目的にテコ入れしようにも、そもそもがゼロ金利であり、少子高齢化によって需要がないのだ。この先には一体、何が待ち受けるのだろうか。

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 バブル全盛の1980年代、住宅メーカーでは、展示場の「モデルハウスを廉価でお譲りします」が盛んに行われた。でも、これはモデルハウスの処分を目的とするものではない。あくまで、マーケティングの一環であり、販売促進に於ける究極の裏技でもあった。

 住販では顧客情報が欲しい。いつ、どこで、誰が、どういった住居を求めているかを知りたい。モデルハウスを餌にすることで全情報を入手できる。加えて、移設に適した敷地か否かを装い、土地の図面提出まで義務付けている。

 もう怖いものはない。恒例の「間に合ってます」攻勢に怯えることもない。そこで「〇〇様、お喜び下さい。敷地が狭小でモデルハウスの移設には適合しませんでしたが、〇〇万円引きの副賞に当選なさいました。本当におめでとうございます・・」となる。

 これは当選ではない。応募者全員に同じことを言っているのだ。しかも事前に申し込み金を徴収しているため、かなりの確率で成約に至る。閉店セールではないが、結果として決算期の駆け込み価格より遥かに高く買わされてゆく。消費者心理を逆手に取った販売手法だが、ぎりぎりセーフといったところか。

 こうした話も今は昔で住宅余りが大変なことになっている。2015年5月から空き家対策措置法が全面施行されたものの効果は一向に上がらない。空き家は増え続け全国では846万戸に達した。これは全戸数の13.55%であり約7軒に1戸の割合である。しかもこれで終わりではないから恐ろしい。

(空き家数の推移)
(日本経済新聞より)

 家屋の数が世帯数を上回った。災害や戦乱、疫病、飢饉といった大惨事を除けば世界の歴史上、初の事例であろう。そこに東京五輪後の不況と高齢者の欠落が追い討ちをかける。15年後(2030年代)には2050万戸にまで拡大し、実に全戸数の3分の1が空き家になる計算である。

 市場は需要と供給のバランスで成り立つ。2030年代に入るや高齢者(団塊の世代)も急速に減少する。高齢者世帯や一人住まいの短期消失が空き家の増加に一段と拍車をかける。瞬く間に3000万戸を超え全体の過半数に達するだろう。日本中が軍艦島になってしまうのだ。ならば不動産に資産価値はない。

 近頃では不動産相続を放棄するケースが後を絶たない。理由は、相続しても買い手が付かない以上、資産価値は期待できない。解体にも高額な費用を覚悟せねばならない。更地であれ空き地物件に延々と納税し続けることになる。結局は、土地建物自体、究極の金食い虫であることに気付いたのだ。

 20xx年、空き家物件の競売が行われた。但し、金の流れはこれまでとは逆で、家屋の所有者が購入希望者に支払わねばならない。不動産情報誌には「当物件を所有して下さる方には謝礼金として数千万から数億円をお支払いします」といった提示で溢れた。払い続ける維持管理費や納税額を考えれば億単位であれ安いものだ。でも希望者は皆無だった。

 まもなく、こんな日が来ないとも限らない。いや確実にやって来る。一部の自治体では(所有物件をタダより安く処分が)もう始まっている。全家屋の大半が廃屋では国家としての体を成さない。観光資源が全国廃屋巡りでは洒落にもならない。僅か十数年で国家そのものが限界集落になってしまうのだ。ここでも21世紀の灯火は確実に遠のいてゆく。やはり人口減少の社会に未来はない。底辺を拡大しない限りは何も解決しない。

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《折り紙》


「なに、カブト(株と)オトウサン(不動産)が大暴落するとな」

「オイラも二束三文で叩き売りされてしまうんかのう?」

「・・・・・もやもや